免税事業者の請求書の書き方|消費税の請求とインボイス制度の注意点

消費税の免税事業者は、消費税の納税義務が免除されています。適格請求書発行事業者として登録していないため、インボイスの登録番号を持たず、適格請求書(インボイス)を発行することはできません。 

では、免税事業者は、消費税を納税しなくても、商品を販売した際に本体価格へ消費税相当額を上乗せして請求できるのでしょうか。 

 

本記事では、免税事業者とインボイスの関係、消費税を請求する場合の請求書の書き方について解説します。制度の概要を押さえながら、免税事業者や経理担当者に向けて、日々の業務に役立つ対応方法をわかりやすく紹介します。 

また、免税事業者が発行する請求書の記載方法や、インボイス制度下で取引先に生じる消費税負担についても正確に整理します。どのような書類が必要で、取引先にどう説明すればよいかを、以下で順に確認しましょう。 

消費税の仕組みとインボイス制度の概略 

(1)消費税の計算方法 

課税事業者は、消費税を申告・納付します。一方、その課税事業者も、商品の仕入れや備品の購入、経費の支払いの際には消費税を負担しています。 

そこで、消費税の申告では、課税売上にかかる消費税額から、課税仕入れにかかる消費税額を差し引いて、納めるべき税額を算出します。 

  

消費税として税務署に納める金額は、原則として次の計算方法で計算します(原則課税方式)。なお、簡易課税制度では、実際に支払った消費税額ではなく、売上にかかる消費税額と事業区分に応じたみなし仕入率を用います。 

  

「課税売上の消費税額」-「課税仕入・経費の消費税額」=納めるべき消費税額 

(2)仕入税額控除とは 

売上で受け取った消費税額から、仕入れで支払った消費税額を差し引くことを「仕入税額控除」と言います。 

上記の算式において、「課税売上の消費税額」から「課税仕入・経費の消費税額」をマイナスしていますが、これが「仕入税額控除」に当たります。 

インボイス制度は、仕入税額控除のための書類の交付・保存に関する仕組みです。売り手である適格請求書発行事業者には、原則として買い手の課税事業者の求めに応じたインボイスの交付義務があり、買い手には、原則として一定の帳簿と適格請求書等の保存が求められます。 

(3)インボイス制度とは 

2023年(令和5年)10月1日から、消費税の仕入税額控除の方式としてインボイス制度が開始されました。 

インボイス制度は正式名称を「適格請求書等保存方式」といい、請求書や納品書の交付や保存に関する制度であり、売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額などを伝えるための制度です。 

  

インボイス制度では、課税事業者が仕入税額控除を受けるために、所定の項目が記載された「適格請求書(インボイス)」の保存等が必要になります。インボイスには、取引年月日や発行事業者名のほかに「登録番号」「適用税率」「税率ごとに区分した消費税額等」の記載が義務付けられます。インボイス制度は、消費税の税率そのものを変える制度ではなく、複数税率に対応した仕入税額控除の方式です。 

  

インボイス制度の導入以前は、インボイスの交付を受けなくても、一定の帳簿や請求書等の保存により、課税事業者は消費税を納付する際に仕入れにかかる消費税額を控除できました。導入後は、原則として適格請求書等の保存が仕入税額控除の要件となっています。ただし、帳簿のみで控除が認められる特例や、免税事業者等からの仕入れに係る経過措置もあります。インボイス制度の導入後も、消費税の計算方法と書類の保存方法を分けて理解することが大切です。 

つまり、原則課税で消費税の仕入税額控除を受けるには、適格請求書(インボイス)と帳簿の保存が基本です。例外の適用可否は、取引の内容や金額、それぞれの要件に応じて判断します。 

  

そして適格請求書を発行できるのは、適格請求書発行事業者として登録している登録事業者(正式には「適格請求書発行事業者」といいます)のみとなります。 

適格請求書発行事業者が発行した請求書であると証明するために、適格請求書(インボイス)には請求書発行者の登録番号を明記するよう義務付けられています。 

適格請求書発行事業者の登録情報は、国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で登録番号を基に確認できます。氏名又は名称、登録年月日などの情報を照合し、取引前の確認資料として活用できます。 

(4)免税事業者からの仕入れは不利になる 

インボイス制度の開始後、原則課税で仕入税額控除を受ける場合は、原則としてインボイスと帳簿を保存します。ただし、免税事業者等からの仕入れも、経過措置やその他の特例の対象になる場合があります。 

免税事業者との取引では、買い手側が仕入税額控除を全額受けられるとは限りません。そのため、ほかの条件が同じなら、適格請求書発行事業者から仕入れる場合より消費税の納税額が大きくなることがあります。一方、買い手が簡易課税制度を適用している場合などは、インボイスの有無が納税額に直接影響しないため、課税方式の違いにも注意が必要です。 

インボイス発行のためには課税事業者になる必要がある 

インボイス制度における「適格請求書(インボイス)」は、通常の請求書と異なり、どの事業者でも自由に発行できるものではありません。税務署への登録申請を経て、適格請求書発行事業者として登録を受けた事業者のみが発行できます。申請書を提出しただけでは、インボイスを発行できない点に注意しましょう。 

  

そして、課税事業者でなければ、適格請求書発行事業者になることができません。 

  

免税事業者のまま、適格請求書発行事業者になることはできません。ただし、免税事業者も登録申請を行うことは可能で、登録を受けると課税事業者となり、登録日以後の取引について適格請求書を発行できます。インボイスを発行するためには、課税事業者になる必要があるということです。 

免税事業者がインボイス制度によって受ける影響とは 

インボイス制度の導入により、免税事業者は、取引先との契約条件や価格設定について、見直しを検討する場面があります。影響の程度は、買い手の課税方式や取引内容によって異なります。 

繰り返しになりますが、2023年10月に開始されたインボイス制度では、適格請求書(インボイス)を発行できるのは課税事業者である適格請求書発行事業者のみです。 

そのため、免税事業者が発行した請求書では、買い手側が通常の仕入税額控除を全額受けられないことから、取引条件の見直しを求められる可能性があります。ただし、すべての免税事業者が同じ影響を受けるわけではありません。 

  

ただし、2023年10月に始まった経過措置により、免税事業者等からの課税仕入れについても、一定の要件を満たせば仕入税額相当額の一部を控除できます。2026年度の税制改正で、この経過措置の控除割合と適用期間が見直されました。 

  

改正後の経過措置は2031年9月30日まで続きます。2023年の制度開始時からの仕入税額控除の割合は、次のとおりです。 

取引時期に応じて控除割合が段階的に変わるため、適用する期間と帳簿の記載事項を確認しましょう。 

  

2023年10月1日から2026年9月30日まで:仕入税額相当額の80% 

2026年10月1日から2028年9月30日まで:仕入税額相当額の70% 

2028年10月1日から2030年9月30日まで:仕入税額相当額の50% 

2030年10月1日から2031年9月30日まで:仕入税額相当額の30% 

 

経過措置の適用には、区分記載請求書と同様の事項を記載した請求書等と、経過措置の適用を受ける旨を記載した帳簿の保存が必要です。2026年10月1日以後に開始する課税期間では、一の免税事業者等からの課税仕入れの合計額がその年又は事業年度で税込1億円を超える場合、超えた部分には適用できません。詳細は国税庁の最新の解説資料で確認してください。 

  

消費税分の値下げを要求される可能性がある 

インボイス制度の導入以前から、免税事業者も、仕入れにかかる消費税などの費用を考慮して販売価格を設定していました。 

本来、免税事業者が消費税分を上乗せ請求することに法律上の問題はありません。この仕組みはインボイス制度の開始後も変わらず、免税事業者が消費税分を受け取ること自体は可能です。 

  

一方、インボイス制度の開始後は、買い手から消費税分の値下げを求められる可能性があります。 

インボイス導入前の制度では、所定の要件を満たせば、免税事業者からの仕入れについても仕入税額控除が認められていました。 

インボイス制度の開始後は、原則課税の買い手が免税事業者から仕入れると、経過措置などを適用しても控除できない部分が生じる場合があります。消費税相当額のすべてが常に自己負担になるわけではありません。 

買い手にとっては、同じ取引価格でも、控除できない仕入税額の分だけ消費税の納税額が増える可能性があります。そのため価格の見直しを申し入れることは考えられますが、免税事業者が負担している仕入れや経費の消費税も踏まえ、双方で十分に協議することが大切です。 

仕事を受注しづらくなる可能性がある 

前述のとおり、インボイス制度の導入後、原則課税の課税事業者が免税事業者へ発注すると、控除できない税額が生じる場合があります。 

このため、発注先の選定でインボイスの発行可否が考慮され、免税事業者が仕事を受注しづらくなる可能性があります。ただし、価格や品質、納期なども判断材料となるため、登録の有無だけで受注が決まるわけではありません。 

  

なお、取引条件の見直し自体が直ちに違法となるわけではありません。ただし、買い手が優越的な立場を利用して一方的に代金を減額するなどの対応は、独占禁止法や取適法等に抵触するおそれがあります。値下げ要求には必ずしも応じる必要はなく、契約と実際の負担に基づいて話し合いましょう。 

新規の案件を獲得しにくくなる可能性がある 

インボイス制度は、免税事業者が新たな案件・取引先を獲得しようとするときに悪影響を与える可能性があるといえます。 

例えば、新規取引の条件として、適格請求書発行事業者であることを求める企業も考えられます。その場合、免税事業者が候補から外れる可能性があります。提案時には、自社が提供するサービスの強みと併せて、インボイス未登録であることや請求条件をわかりやすく伝えましょう。 

免税事業者は消費税を請求できるが注意すべきことがある 

免税事業者であっても、消費税を請求できます。 

実務上は、請求金額の算定や請求書の作成方法について、税理士に相談しながら進めることで、取引先とのトラブルを防ぎやすくなります。 

免税事業者には消費税の納税義務がありませんが、取引先に対して、請求書上で消費税相当額を含めた金額を請求することは可能です。免税事業者が仕入れの際に負担した消費税相当額を価格に上乗せすることは、国税庁も適正な転嫁として問題ないとしています。 

  

免税事業者も、仕入れや経費の支払いで消費税を負担しています。その負担を販売価格に反映できなければ、自社の利益が圧迫される場合があります。 

そのため、免税事業者が消費税相当額を請求すること自体に問題はありません。ただし、契約時に合意した価格や条件に沿った請求を行うことが前提です。 

ただし、以下の点に注意が必要です。 

取引先との合意 

免税事業者であることを明示せず、消費税を含んだ金額を請求すると、後に問題が発生する可能性があります。請求前に、消費税相当額を含む価格について合意が得られているかを確認する必要があります。 

取引先から消費税相当額の取り扱いについて確認を受ける場合もあるため、見積書や契約書の段階で、税込総額とインボイスの発行可否を共有しておきましょう。 

  

買い手から値下げ要求を受けた場合は、契約内容と価格の算定根拠を確認し、仕入れに伴う消費税負担も説明しましょう。取引条件は一方的に受け入れるのではなく、双方が納得できるよう協議することが大切です。 

消費税相当額を請求しても納税義務は発生しない 

免税事業者が消費税相当額を上乗せして請求した場合でも、その分を税務署に納付する義務はありません。 

請求書では、消費税相当額を含む税込価格を明示すると、取引先に総額が伝わりやすくなります。「消費税」と記載すること自体が禁止されているわけではありませんが、適格請求書と誤認される表示は避け、未登録であることを併記するのがおすすめです。 

 

免税事業者が請求書に記載すべき項目 

インボイス制度開始前から「区分記載請求書」という請求書が法定されていました。 

インボイス制度開始後も、免税事業者が発行する請求書は、旧来方式の「区分記載請求書」の形式にしたがって発行することをおすすめします。 

  

ただし、免税事業者が、適格請求書(インボイス)であると誤認されるおそれのある表示をした書類を交付することは禁止されています。架空の登録番号や他者の登録番号を記載しないようにしましょう。 

そのため、請求書に免税事業者であることを明記することをお勧めします。 

  

以下は、買い手が経過措置を適用する際の確認にも役立つ、請求書の主な記載事項です。区分記載請求書の項目と、誤認防止のために任意で加える事項を区別して整理します。 

具体的には、次の(1)~(5)を基本として記載し、(6)を補足すると、請求書の位置付けが伝わりやすくなります。 

(1)請求書を発行する事業者の氏名又は名称
(2)取引年月日
(3)取引内容(軽減税率の対象品目がある場合はその旨)
(4)税率ごとに区分して合計した対価の額(税込み)
(5)書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称(小売業等では省略できる場合があります)
(6)免税事業者である旨の明記(誤認防止のための任意の補足事項) 

※書き方の例としては、「弊社は免税事業者のため、この請求書はインボイスではありません。」 

  

取引内容に軽減税率対象の商品が含まれる場合は、「※印は軽減税率(8%)対象」などと記載し、税率ごとの税込合計額を区分して示しましょう。標準税率10%と軽減税率8%の金額を分けると、買い手も正確に処理しやすくなります。 

請求書の注意点 

インボイス制度下では、課税事業者である取引先が、受領した請求書を円滑に処理できるよう配慮するとよいでしょう。 

取引先の事務負担を軽減するために、以下の点に配慮しましょう。請求書だけでなく、納品書や領収書を発行する場合も、取引年月日、商品名、金額などの情報が食い違わないよう確認しておくことが大切です。 

税込価格の明記(総額表示)が基本 

請求書では、消費税相当額を含む税込総額を明確に示すと、取引先が支払う金額を把握しやすくなります。ここでいう総額表示は、請求書をわかりやすく作成するための工夫であり、消費者向けの価格表示に関する法定の総額表示義務とは区別して考えます。 

税込価格と税抜価格の区別が曖昧だと、取引先の帳簿処理や支払いの確認に支障が生じるおそれがあります。「税込」の表記と請求総額を明確にしましょう。 

必要に応じた税額の記載 

免税事業者が発行する区分記載請求書には、税率ごとの消費税額を独立した項目として記載する義務はありません。ただし、消費税相当額を記載すること自体が禁止されているわけではなく、適格請求書と誤認される表示にならないようにすることが重要です。例えば、消費税相当額を内訳として示す場合は、本体価格との合計が税込総額に一致しているか注意しましょう。 

買い手側から、経過措置の計算や社内処理のために消費税相当額の明示を求められた場合は、税込総額との関係がわかるよう記載できます。消費税相当額の別記そのものが、経過措置の適用要件ではないことも押さえておきましょう。 

インボイス未登録を明示する 

免税事業者が請求書を発行する場合は、法律上、適格請求書と誤認されない請求書を発行する必要があります。 

「当社は適格請求書発行事業者ではございません」と請求書にその旨を記載しておくと、相手もスムーズに確認できます。 

免税事業者は適格請求書を発行できませんが、買い手が経過措置などを適用できる場合はあります。未登録の表示は、仕入税額控除の取り扱いを確認する手掛かりになりますが、それ自体は法定記載事項ではありません。 

 

月々の請求書の作成・管理には、クラウドサービスの利用も選択肢です。導入前に、免税事業者用の表示、税率ごとの集計、請求書と納品書の照合が可能かを確認すると、経理業務の効率化につながります。 

また、電子メールなどで請求書や領収書のデータを送付・受領する場合は、電子帳簿保存法に基づく電子取引データの保存にも対応します。消費税が免税でも、所得税法・法人税法上の保存義務があれば対象になるため、インボイス登録とは別に保存方法や保存期間を確認しましょう。 

まとめ 

ここまでのまとめとして、インボイス制度下でも、免税事業者は消費税相当額を含めた請求ができます。ただし、適格請求書を発行することはできないため、通常の請求書との違いを取引先と共有することが重要です。 

  

免税事業者が消費税相当額を上乗せして請求したことだけを理由に、その金額を税務署へ納付する義務が生じるわけではありません。

  

免税事業者は、適格請求書ではなく、従来の区分記載請求書と同様の事項を記載した請求書を発行できます。買い手の仕入税額控除については、経過措置の適用と保存要件を併せて確認しましょう。 

  

請求書は税込価格と請求総額を明確にし、取引先との合意に沿って作成しましょう。正確な記載と適切な保存を心掛けることが、取引の継続と円滑な経理処理に役立ちます。消費税の取り扱いに迷う場合は、取引の実態がわかる資料をそろえて専門家に相談してください。 

 

執筆:税理士 渕上肇