インボイス制度の経過措置とは?8割特例、2割特例、少額特例について解説

目次
経過措置とはどういうものか
インボイス制度の導入によって、インボイス登録の有無にかかわらず、事業者が受ける影響は多大なものがあります。
例えば、インボイス制度の導入後は、原則としてインボイス(適格請求書)を保存しない限り、仕入税額控除が受けられなくなります。このため、納める消費税額が従来よりも増加する可能性があります。
また、インボイスの保存が要求されるため、事務負担が増大することが見込まれます。
そのため、事業者の負担を一定期間は軽減できるよう、制度開始から経過措置が用意されています。
インボイス制度の主な経過措置には、次のようなものがあります。
- 8割控除の特例
- 2割特例
- 少額特例制度
そもそもインボイス制度とは
仕入税額控除
消費税は消費者が負担しますが、納税は課税事業者が行います。課税事業者は、売上げに係る消費税額から、仕入れに係る消費税額を差し引いて計算した額を納税します。算式で表すと次のようになります。
「課税売上に関して受け取った消費税額」-「課税仕入に関して支払った消費税額」=納めるべき消費税額
上記の算式の
ように売上で受け取った消費税額から、仕入れで支払った消費税額を差し引くことを「仕入税額控除」と言います。
インボイス制度の概略
2023年10月にインボイス制度がはじまると、この仕入税額控除をするためには、原則として、仕入先からインボイス(適格請求書)を発行してもらい、保存しておく必要があります。
このインボイスは、税務署長の登録を受けたインボイス発行事業者(登録事業者)のみが発行できます。つまり、仕入先にインボイスを発行してもらうには、仕入先が税務署にインボイス事業者として登録する必要があります。つまり、仕入先がインボイス発行事業者であるか確認する作業が必要となってきます。
仮に、仕入先がインボイス発行事業者ではなかった場合、そこから仕入れた取引は、仕入税額控除ができず納税する消費税の額が増えてしまいます。
売り手と買い手の義務
<売手側>
売手である登録事業者は、買手である取引相手(課税事業者)から求められたときは、インボイスを交付しなければなりません(また、自らが交付したインボイスの写しを保存しておく必要があります)。
<買手側>
買手は仕入税額控除の適用を受けるために、原則として、取引相手(売手)である登録事業者から交付を受けたインボイスの保存等が必要となります。
ただし例外として、買手はインボイスの保存に代えて、買手が自ら作成した仕入明細書等のうち「一定の事項(インボイスに記載が必要な事項)が記載され取引相手の確認を受けたもの」を保存することで、仕入税額控除の適用を受けることもできます。
8割控除の特例
インボイス制度における免税事業者からの仕入れ
インボイス制度では、免税事業者や登録を受けていない課税事業者からの仕入れについては、インボイスの交付を受けられないため、仕入税額控除ができません。
そのため、制度導入時の激変緩和措置として8割控除の特例が経過措置として設けられました。
(1)特例の内容
取引先が免税事業者である場合やインボイス番号を取得していない場合であっても、経過措置の期間中であれば、一定割合(8割または5割)に限って仕入税額の控除が可能となります。
経過措置を適用できる期間は6年間で、仕入税額の控除割合は次の通りです。
二段階で割合が変わるので注意が必要です。
- 2023年10月1日から2026年9月30日まで:仕入税額相当額の80%
- 2026年10月1日から2029年9月30日まで:仕入税額相当額の50%
(2) 仕入税額控除の経過措置の対象になる事業者
特に制限はありません。
(3)適用要件
なお、経過措置の適用を受けるには、一定の要件を満たす帳簿および請求書等の保存が必要となります。
帳簿に関しては、区分記載請求書等保存方式と同様の記載事項に加え、経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨の記載(「80%控除対象」など)が必要です。
帳簿に記載すべき要件は、具体的には次の通りです。
仕入先の免税事業者の氏名または名称
取引年月日
取引内容
経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨の記載
課税仕入れの取引金額
また、請求書等については、区分記載請求書と同様の記載事項が必要となります。
区分記載請求書の記載事項は、具体的には次の通りです。
請求書等の作成者の氏名又は名称
取引を行った年月日
取引内容(経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨)
税率ごとに合計した税込価格
請求書等の交付を受ける事業者の氏名または名称
8割控除の特例につきましては、下記もご参照ください。
「インボイス制度の経過措置の8割控除特例とは?免税事業者などからの仕入はどうなる?」
2割特例
2割特例とは、免税事業者が適格請求書発行事業者となる場合には、仕入税額控除の金額を売上げに係る消費税額の8割として控除計算できる経過措置です。消費税の納税額が「売上時に預かった消費税の2割」となる制度です。
そのため、多くの事業者にとって消費税の負担が緩和されることになります。また、仕入の際に支払った消費税の計算は不要なので、納税額を計算するための事務負担も軽減されます。
(1) 2割特例の納税額
「売上の消費税額 -(売上の消費税額 × 80%)」=納税額
(2) 適用期間
2割特例の適用期間は、インボイス制度が導入された2023年10月1日から2026年9月30日までに属する各課税期間です。
(3) 2割特例の対象者
この特例の適用対象者は、インボイス制度導入を機に免税事業者から適格請求書発行事業者として課税事業者になった者に限られています。
したがって、下記の要件のいずれかに該当すると、2割特例の対象にはなりません。
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- 基準期間か特定期間の課税売上高が1000万円を超える事業者
- 基準期間も特定期間も課税売上高は1000万円以下だが、課税事業者選択届出書を提出して2023年10月1日の属する課税期間以前から課税事業者になっている事業者(一定の救済措置あり)
- 課税期間の短縮をしている事業者
(注)特定期間とは、個人事業者についてはその年の前年1月1日から6月30日までの期間、法人についてはその事業年度の前事業年度開始の日以後6ヶ月の期間をいいます。
(4) 2割特例を受けるための手続き等
2割特例の適用にあたっては、消費税の確定申告書に2割特例の適用を受ける旨を付記することだけで適用を受けることができます。事前の届出等の必要はありません。
また、継続適用の要件もないので、消費税の確定申告を行うごとに2割特例の適用を受けるかどうかの選択が可能です。
少額特例
少額特例制度は、税込1万円未満の課税仕入れについては、インボイスがなくても一定事項が記載された帳簿の保存だけで、仕入税額控除が適用される経過措置です。少額特例制度を適用する場合は、インボイスを保存する必要がありません。
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適用対象者
少額特例制度は、基準期間における課税売上高1億円以下、または特定期間における課税売上高が5,000万円以下の事業者が対象です。
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適用対象となる取引
国内において行う課税仕入れのうち、一回の取引の課税仕入れに係る税込金額が1万円未満である取引が対象となります。
金額の判定は、1商品ごとではなく1回の取引の際に支払った総額で判定します。また、複数の取引を月ごとにまとめた単位での判定でもありません。あくまでも一取引という点に注意が必要です。
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適用対象期間
この特例は、2023年10月1日から2029年9月30日までの6年間に行う課税仕入れが適用対象となります。
2029年9月30日が課税期間の途中であっても、その翌日以後に行う課税仕入れについては対象外となりますので注意が必要です。
少額特例の帳簿記載要件
前述のとおり、少額特例を適用する場合はインボイスの保存は不要ですが、「一定の事項」を記載した帳簿を保存することが必要です。この一定の事項とは、次のものをいいます。
1,課税仕入れの相手方の氏名又は名称
2,取引年月日
3,取引内容(軽減税率対象の場合、その旨)
4,課税仕入れに係る支払対価の額
まとめ
2023年10月のインボイス制度が導入後は、原則的に免税事業者への支払に関しては、仕入税額控除が認められなくなります。
ただし、激変緩和のため経過措置が設けられているため、インボイス制度の開始と同時に全額が控除できなくなるわけではありません。インボイス制度開始の後6年間は経過措置を受けることができます。
インボイス制度の経過措置には、仕入税額控除の経過措置(「8割控除の特例」)のほかにも、免税事業者が課税事業者になった場合に、売上の消費税額から8割を差し引いて納税できる「2割特例」や、条件を満たすことで1万円以下のインボイスの発行と保存が不要になる「少額特例」制度などの経過措置が設けられています。
したがって、これらの措置を上手に使って業績へのダメージを最小化することが重要です。
執筆者:税理士 渕上 肇