記帳代行とは?メリット・デメリットや依頼先の選び方を解説

目次

 

記帳代行は、専門人材の少ない個人事業主や中小企業にとっては魅力的なサービスです。

記帳代行サービスを活用すれば、本業を犠牲にせずに経理業務を円滑に進めることができます。

しかし、記帳代行を依頼する際に、事前に検討しないまま依頼先を決めてしまうと、期待した成果が得られないかもしれません。そこで本記事では、記帳代行サービス選びで失敗しない選び方を詳しく解説します。

記帳代行に依頼できる業務

記帳代行とは経理業務の一部である記帳業務をアウトソーシングすることです。

(1)記帳業務とは

記帳業務とは、事業を運営するなかで生じるさまざまな取引内容を帳簿に記入することをいいます。日々の売上・仕入れの金額・経費の支払いなど、お金の流れを正確に記帳しておくことです。そして、これらの記録に基づき財務諸表を作成し、税金の計算を行います。

 

事業経営に必要な決算書や試算表を正確に作成するためには、記帳業務は欠かせない業務です。経営判断を下すにあたっては、事業活動の正確な数値が必要ですから、記帳業務は事業運営に欠かせない業務といえます。

 

また、記帳業務は、税務申告をするために欠かせないものであるため、企業の形態や規模を問わず必要です。フリーランスや零細企業であっても、省くことのできない重要な業務なのです。

(2)記帳代行とは

記帳代行とは、企業や個人事業主が日々の取引や経費などの会計データを記録する作業(記帳)を、専門家や外部のサービス業者に代行してもらうサービスのことです。記帳代行は、主に中小企業や個人事業主が利用することが多く、会計や簿記の知識が不足している場合や、自社内でその業務を処理するリソースが不足している場合に役立ちます。

(3)記帳代行の具体的な業務内容

①仕訳の記録

日々の取引(売上、仕入れ、経費など)を仕訳して帳簿に記録します。提供された領収書や請求書を元に、正確に経費や収入を記録します。記帳代行業者が会計ソフトに入力します。

②帳簿作成

仕訳データを基に、総勘定元帳や仕訳帳などの帳簿を作成します。基本的には、記帳代行業者の会計ソフトに入力されたデータをもとに、その会計ソフト上で作成されます。

主要簿(基本となる帳簿)

仕訳帳

 取引を日付順に記録する帳簿で、すべての取引の最初の記録

総勘定元帳

 仕訳帳に記録された取引を勘定科目ごとに整理して記録する帳簿

補助簿(詳細な取引を記録する帳簿)

現金出納帳

 現金の入出金を記録する帳簿

売掛金帳

 売掛金を管理する帳簿

買掛金帳

 買掛金を管理する帳簿

③領収書や請求書の整理

提供された領収書や請求書をバインダーなどに整理保存します。

④試算表の作成

月次や四半期ごとに試算表を作成し、企業の財務状況を明確化します。

⑤税務申告の準備(場合による)

税理士と連携して、確定申告や税務申告のための基礎資料を整えます。

 

記帳代行を利用するメリット

(1)本業に集中することで業務効率化

記帳業務は細かい作業が多く、時間がかかります。これを代行することで、本業に専念できます。

専門の経理スタッフがいない企業だと、業務終了後に経営者や他業務のスタッフが記帳を行っているケースも少なくありません。

記帳業務をアウトソーシングすることにより、これまで社内で処理していた経理業務の負担を減らすことができます。

本来必要なコア業務にリソースを集中させることができるので、さまざまなメリットが期待できるでしょう。

(2)専門的な知識と正確な記帳が期待できる

会計や税務の知識が必要な業務を専門家に任せることで、ミスを防ぎ、正確な帳簿を維持できます。

記帳代行業者には、経理・記帳に関するエキスパートが揃っています。簿記や会計資格を持っているスタッフが多い業者を選べば、正確な仕訳・入力を行ってくれるでしょう。

経理専任スタッフがいない個人事業主や中小企業の場合、兼任スタッフや経営者が空いた時間に記帳を行うケースも見受けられます。

そのため記帳漏れや入力ミスが発生しやすく、不正確な帳簿ができてしまうことも少なくありません。

記帳代行業者なら、効率的かつ正確な数字を管理してくれます。記帳代行は企業にとっては大きなメリットとなるでしょう。

(3)コスト削減になる場合も

内部に経理担当者を雇うよりも、記帳代行サービスを利用する方が費用を抑えられる場合があります。

記帳代行を業務委託することにより、経理担当者の採用費・給与といった固定費のコスト削減に繋がります。

社員を採用するとなると、福利厚生や社会保険料を負担する義務が発生します。会社によっては重い負担となりますが、記帳代行ならこれらのコストが必要ありません。

また新たな経理スタッフを雇う場合、業務の引き継ぎやノウハウ教育の期間が必要になってきます。

しかし記帳代行ならアウトソーシング先に人材が揃っているので、人材育成の時間をカットできるでしょう。そのため企業は大幅なコスト削減が実現できます。

(4)税務調査や申告への備え

記帳代行サービスを提供する会社や専門家は、税務署からの指摘や監査にも対応しやすい帳簿を作成します。

正確に整備された帳簿は、税務調査に対して強い武器になります。
税理士事務所が提供する記帳代行では、そのまま税務申告の資料として利用できることも多いです。

 

記帳代行のデメリット

(1)費用がかかる

記帳代行には一定の費用が発生します。取引量や業務範囲によって料金は異なりますが、小規模事業者にとっては負担に感じる場合もあります。経理専任スタッフがいない個人事業主や中小企業で、兼任スタッフや経営者が空いた時間に記帳を行っていた場合には、記帳代行の費用がコストとして発生します。
特に、長期間利用する場合や高度な分析業務を依頼する場合、コストが増加する可能性があります。

(2)自社内での財務状況の把握が遅れるリスク

記帳代行業者に業務を任せきりにすると、経営者や担当者が自社の財務状況を把握する機会が減る可能性があります。
日々の取引内容に対する意識が薄くなることがデメリットです。

(3)データのやり取りに手間がかかる場合がある

領収書や請求書、通帳のデータを記帳代行業者に送る必要があり、準備に手間がかかることがあります。
最近はクラウドツールを使った効率的な共有も進んでいますが、アナログな方法では時間がかかることもあります。

(4)情報漏洩のリスク

業者に経理データを共有するため、機密情報の漏洩リスクがあります。
信頼できる業者を選ばないと、不正利用や情報漏洩の可能性が懸念されます。

(5)業務の範囲が制限される場合がある

記帳代行は基本的に帳簿の作成や記録が中心です。経営分析やコンサルティング、税務申告などは別途依頼が必要になる場合があります。
業者によってサービスの範囲が異なるため、自社のニーズに合った業者を選定する必要があります。

(6)対応のスピード感に差がある

記帳代行業者の処理スピードやレスポンスが遅い場合、必要な帳簿データがすぐに手に入らないことがあります。
緊急時や突然の税務対応に不便を感じることもあるかもしれません。

(7)自社の経理担当者が育たない

自社で記帳業務を行わないため、記帳に習熟した社員が育たない恐れがあります。

 

記帳代行を契約するまでの流れ

記帳代行を契約するまでの流れは以下のとおりです。

 

(1)記帳代行を依頼する目的を決める

記帳代行をスムーズに活用するためには、まずは目的を明確にすることが重要です。自社の経理にに関して何が課題なのかを具体的に考えることが、効果的な依頼につながります。

 

例えば、日々の会計ソフト入力の時間を短縮してコア業務に集中したい、帳簿の精度を上げて決算に費やす時間を短縮したい、リアルタイムで経営状況を把握したいといった目的が考えられます。このように目的を整理することで、記帳代行会社に具体的な要望を伝えることが可能となり、費用対効果を測りやすくなります。

(2)現状の経理業務を洗い出す

自社のの経理業務のなかで、どの作業が特に負担となっているかを具体的に洗い出します。例えば、領収書の整理に時間がかかっている、会計ソフトへの入力ミスが頻発している、月次決算の準備に追われているといった問題点があるかもしれません。

 

洗い出しを行うことで、記帳代行会社に依頼すべき業務が明確になり、逆にどの部分は社内で対応可能かの判断がつきやすくなります。記帳代行を有効に活用するために慎重に検討しましょう。

(3)業務の効率化を検討する

記帳代行の導入を検討する際には、まず社内業務の効率化を試みることも重要です。例えば、領収書や請求書の保管方法を見直したり、クラウド会計ソフトやツールを活用して自動化を図るなどの工夫が考えられます。

これらの業務について、無駄な作業を省きデジタル化することで、手作業による時間や労力を削減し、業務の正確性と迅速性を高められます。

社内でできる限りの業務改善を行ったうえで、記帳代行サービスを依頼することで、依頼コストの削減につながります。

(4)予算とスケジュールを検討する

記帳代行の料金は、取引件数や依頼する業務の範囲、必要な帳簿の種類などによって異なります。そのため、自社の業務量を把握し、それに応じた適正な予算を設定することが重要です。

また、依頼を開始するタイミングや、どの程度の頻度で業務を依頼するかといったスケジュールも具体的に考える必要があります。

これにより、記帳代行会社との打ち合わせがスムーズになり、依頼の開始後も計画的にサービスを利用できます。

(5)見積もりを依頼する

社内の準備が整ったら、複数の記帳代行会社に見積り依頼を出して、それぞれのサービス内容や料金体系を比較検討しましょう。見積もり依頼時には、現在の経理業務の状況や委託を希望する業務内容を明確に伝えましょう。

 

また、サービスの業務範囲や納期、サポート体制なども細かく確認し、予算や目的にあった記帳代行会社を選びましょう。

 

記帳代行の依頼先

記帳代行の依頼先の主なものは、下記のとおりです。なお、下記の他に、行政書士なども記帳代行を行っていることがあります。

(1)記帳代行会社

記帳代行会社は記帳代行業を専門にサービスを提供しています。大規模に事業を展開している会社ではサービスの単価が安いことも多いです。ただし、スタッフの多くは税理士免許を持っていないため、税務に関する相談はできません。

(2)会計事務所

企業によっては会計事務所と顧問契約を締結している場合も多いですが、記帳代行をサービスの一環として行っている会計事務所も増えています。税務のプロフェッショナルなので、記帳代行のほかにも節税対策の相談も可能です。ただし、クラウド会計などに対応していないケースもあり、その場合は領収書や請求書を郵送するなどの手間がかかる可能性があります。

(3)クラウドソーシングサービス

インターネット上のクラウドソーシングサービスでも経理代行をしている個人や企業が探せます。

経理の実務経験者や税理士試験科目合格者など専門知識を持つフリーランスが登録しており、必要な時に必要なスキルを持つワーカーに依頼できます。

ただし、クラウドソーシングサービスでは、個々の委託先によってスキルにばらつきがあるため慎重に検討しましょう。

 

記帳代行の選び方

(1)依頼可能な業務の範囲を確認する

記帳代行サービスの利用を考えている場合、自社の経理業務において依頼したい業務範囲をはっきりさせる必要があります。

一口に記帳代行といっても、会計ソフトへの入力だけでなく、試算表や資金繰り表の作成などを付随的に依頼したいケースも考えられます。依頼先の業者がこの依頼したい業務範囲をカバーしていない場合、想定していた時間節約効果が少なくなってしまいます。

したがって、サービスを選ぶ際は、依頼したい業務を担ってもらえるかを必ず確認しましょう。オプションなどの追加料金が発生する場合もあります。

(2)信頼できる企業・導入実績があるか

経営に関わる重要な情報を渡すことになるため、信頼性のある業者を選ぶことが必須です。会計業務には重要な情報が含まれ、ミスや期日遅れが発生すると、逆に業務負担や精神的ストレスが増加する可能性があります。業者の信頼性を評価するために、これまでの実績や営業年数を確認し、十分な経験があることを確認することが重要です。

実績を見るには、導入事例、導入社数の多さなどを判断材料にします。 さらに、口コミ・評判を調べておきましょう。 初回相談の際に実例を確認しておくことも重要です。

(3)サポート体制・コミュニケーションの取りやすさはどうか

経理代行サービスのサポート体制と、コミュニケーションの取りやすさも重要なチェックポイントです。

経理代行サービスでは、必要書類やデータの受け渡しなどの最低限のやり取りが発生します。書類やデータの受け渡しに遅延が生じたり、コミュニケーションが取りづらいと代行業務が円滑に進みません。このような事態を防ぐためには、手軽に使えるチャットツールの活用が有効です。チャットツールによるコミュニケーションに対応しているかどうかを事前に確認しておきましょう。

 

また、提供した書類の不備についても親切丁寧にその必要性などを指導してくれることも重要です。

 

さらに、継続的に経理代行を利用していく中で、他の業務にも対応してほしいという状況も出てきます。そのようなときに最初に契約した内容でした対応してくれず、途中の変更をしてくれないこともあります。

業務量の増減にはどこまで対応してくれるのか、また例外的な業務にも柔軟に対応をしてくれるのか、事前に確認しておくことをお勧めします。

 

記帳代行を選ぶ際のポイント

(1)費用とサービス内容のバランス

料金体系の確認はもちろん、提供されるサービスの内容や提供範囲を確認しましょう。また、売上規模や従業員数によって料金が異なる場合がありますので、事前の見積もり相談をしたうえで、比較検討しましょう。

(2)セキュリティ対策

記帳代行サービスを利用する際は、自社の経理に関する情報や従業員の個人情報を、代行業者と共有することになります。そのため、セキュリティ対策が徹底されていない代行会社に依頼してしまうと、情報漏洩に繋がるリスクが高まります。

契約する前に、セキュリティポリシーの詳細を確認するとともに、プライバシーマーク(Pマーク)やISOなどの認証の有無についても確認しておく必要があります。

(3)ツールやシステムの活用状況

クラウド会計ソフトや効率的なデータ共有システムを活用している業者を選ぶと、データのやり取りの手間が軽減されます。特に、クラウド会計ソフトの利用やAI技術の導入など、最新の効率化ツールを活用している会社は、スピードや正確性の面で優れていると言えるでしょう。

(4)優先したいポイントを明確にする

記帳代行を利用する際には、業務委託する上で一番優先したいポイントを明確にしておく必要があります。

たとえば、入力の正確性を優先するのか、情報漏洩に対する安全性の高さを優先するのか、あるいは、コスト削減を第一に考え、料金の安さにこだわるのか、はっきりさせておきましょう。

 

優先順位をしっかり決めておくことで、効率的に業者の選択ができるでしょう。

(5)税理士との連携

税務申告の依頼も検討している場合は、税理士が関与している記帳代行サービスに依頼すると、ワンストップで済むため便利です。

まとめ

記帳代行は、会計や経理業務を効率化し、事業に専念できるようになる便利なサービスです。一方で、費用や業者選定の重要性を理解した上で、自社のニーズに最適な形で活用することが大切です。メリットとデメリットを十分に検討し、信頼できるパートナーを選ぶことで、より良い経営のサポートが得られるでしょう。

記帳代行が適しているのは、次のような場合です。

(1)社内スタッフに会計の知識がなく、自社での記帳が難しい場合

(2)新たに経理担当者を雇う余裕がない場合

(3)短期間で正確な帳簿を作成したい場合

(4)税務調査への備えとして、帳簿を整えておきたい場合

 

執筆者:税理士 渕上 肇