【企業向け】人材派遣とは?活用するメリット・デメリット、利用時の注意点について解説

現代の企業経営において、業務の効率化とコスト削減は最優先の課題です。「人手が足りない」からといって、新たに人を採用することはかえって非効率になる恐れがあります。
たとえば、直接雇用となると、求人広告などで人を集めることからはじまり、社内の予定を合わせて面接をし、社会保険など入社手続き、募集広告代金の支払いとさまざまな業務が必要になります。
さらに、採用後も社会保険、労働保険の手続き、労務管理。教育など多くのコストがかかります。 また、中小企業にとっては、新たに募集しても専門的スキルのある人材が集まる時代ではありません。
そのため、人材派遣を活用することは有力な手段と考えられます。 本記事では、人材派遣の基本的な内容を解説し、そのメリット・デメリットについて詳しく解説します。
人材派遣とは
派遣は、派遣会社に雇用された労働者が、派遣先企業に派遣されそこで働く形態を指します。 派遣社員自身と派遣先企業との間に雇用関係はありません。しかし、派遣社員への指揮命令権は派遣先企業にあるのがポイントです。
派遣社員と派遣会社が雇用契約を結び、派遣会社と派遣先企業は派遣契約を結ぶという関係になります。 派遣スタッフの雇用契約は派遣会社と結びますので、給与は派遣会社から受けとり、福利厚生も派遣会社のものが適用されます。
人材派遣の目的は、人材確保であり、業務を実施した時間に対して報酬が支払われます。 人材派遣を利用することで、人材確保の手間を省き、繁忙期と閑散期の差が大きい業務に対し柔軟な人員調整ができます。また、人材派遣を活用することで、採用や教育といったコストをかけずにスキルや経験のある人材を確保できる点もメリットです。
人材派遣は、主に以下の3類型に分けられます。
(1)常用型派遣
常用型派遣は、派遣会社が派遣労働者を正社員または契約社員として直接雇用し、派遣先企業で働く形態です。 派遣労働者は派遣会社の社員(正社員または契約社員)として雇用され、派遣先企業での就業の有無に関わらず、派遣会社から一定の給与が支払われます。
(2)登録型派遣
登録型派遣は、派遣労働者が派遣会社に登録し、派遣先企業が決まった期間だけ働く形態です。 派遣先企業で働く期間だけ派遣会社と雇用契約を結びます(期間限定の雇用)。 派遣契約が終了すると雇用契約も終了します。 派遣先企業で働いた分だけ給与が支払われます(時給制が一般的)。派遣契約がない間は収入が発生しません。
(3)紹介予定派遣
紹介予定派遣は、派遣労働者が一定期間派遣社員として働いた後、派遣先企業に直接雇用されることを前提とした派遣形態です。 最初は派遣会社と雇用契約を結び、派遣社員として働きます。 派遣期間(最長6ヶ月)が終了後、派遣先企業と派遣社員が合意した場合に直接雇用(正社員または契約社員)に切り替わります。
人材派遣の特徴
(1)契約形態
派遣社員は、派遣会社と雇用契約を結びます。そして、派遣会社と派遣先企業が派遣契約を結びます。 派遣先企業と派遣社員の間に直接的な雇用関係はありません。
(2)働き方の自由度
派遣の場合、派遣先企業が派遣社員に対して指揮命令できます。派遣社員は、派遣先企業から指定された勤務時間や場所、業務内容で働くことになります。 さらに、業務の範囲や条件は派遣会社と派遣先企業との契約で決まるため、自由度はフリーランスに比べて低いです。
(3)収入の仕組み
派遣会社から給与が支払われ、時給制や月給制が一般的です。 収入は安定しやすいですが、契約期間終了後の仕事の有無は派遣会社の紹介次第です。
(4)労働基準法
派遣の場合は派遣会社との間に雇用契約を結ぶので、労働基準法が適用されます。 派遣は基本的には派遣会社の提示した時給制で働くこととなりますが、労働基準法が適用されることで勤務時間や時間外労働の残業代、最低賃金などのルールにより保護されます。
(5)社会保険・税務
派遣社員は一定の条件を満たすことで「社会保険」に加入することができます。この場合、社会保険料の半分は、派遣会社が負担しますので、フリーランスより有利です。 派遣社員の所得税は給与から源泉徴収され、派遣会社が年末調整してくれるため、確定申告の必要がない場合がほとんどです。
人材派遣を利用するメリット
人材派遣を利用するメリットは以下の通りです。
(1)柔軟で臨機応変な人材配置ができる
人材派遣の最大のメリットは、期間や業務内容など、必要な時に、必要なスキルを持つ人材を活用できる点です。 例えば、繁閑期の業務量の差が大きい業務の場合、繁忙期のみ他部門から社員を応援に回すことも考えられますが、それでは、業務効率が低下してしまいます。繁忙期の短期間だけ派遣スタッフを受け入れるなら、生産性を低下させることなく円滑に業務を継続することが可能です。
さらに、短時間勤務や週3日などの時短勤務や、社員の育児休業など一時的な補充にも対応できます。介護休業などの突発的な欠員の確保のために活用するなど、様々な状況に合わせて柔軟に人員追加できます。 派遣してもらう人数も調整が可能なため、滞りなく業務を遂行できるのが大きなメリットです。
(2)必要なスキルの人材確保
本来なら直接雇用したいというときでも、職種や業種によってはなかなか人材が集まらないこともあります。とくに不人気な職種や業種であるなら、なおさらです。また、専門性が高い職種や業種も、そもそも採用が難しいものです。 そんな時に、派遣を利用することで必要な人材を確保することができます。
たとえば、経理部門など専門的なスキルを必要とする業務において、決算期などの繁忙期に専門スキルを持った人材を確保することができます。
(3)労務管理の負荷軽減・コスト削減
派遣スタッフの給与計算や支払い、社会保険、労働保険の加入手続きなどは派遣元である人材派遣会社が対応します。そのため派遣先である自社がこれらの労務管理業務を行う必要がありません。ただし、派遣スタッフの労働時間の管理は必要です。
また、採用コストが削減できます。すなわち、書類選考や面接を行うための人件費、求人募集に出すための広告費などです。通常ならそれらのコストがかかる上に時間もかかりますが、人材派遣を利用することで、すべて削減できます。
人材派遣を利用するデメリット
人材派遣を利用するデメリットは以下の通りです。
(1)業務指示を直接行う必要があるため管理者の負担が増える
人材派遣の場合、指揮命令権は依頼した側にあるため、派遣スタッフに対して直接業務指示を出すことになります。 派遣スタッフが自ら業務内容を判断することが難しいため、自社で派遣スタッフに何を依頼するかを判断・管理する必要があります。 そのため、管理者の負担は増えてしまう可能性があります。
(2)派遣期間には上限がある
派遣の場合は契約の更新に上限があります。労働者派遣法により原則3年を上限とする派遣受入期間の制限が設けられており、引き続き同じ職場・部署で雇用継続する場合、正社員・契約社員など、雇用形態を切り替えなくてはいけません。そのため、長期的な人材確保には向いていません。
(3)教育コストがかさむ可能性がある
派遣の場合は、派遣法により同一の派遣先での最長契約期間が3年に制限されているため、人材がその業務に精通していない可能性が高いので、教育のコストも考える必要があります。教育・管理には十分なリソースを払わないと、人材が確保できても良い結果を生まない可能性が出てしまうでしょう。
(4)契約書に記載されていない業務は任せられない
派遣元である人材派遣会社と自社の契約では、派遣スタッフの業務内容が取り決められており、契約書にない業務に派遣スタッフを従事させることはできません。
もし、契約外の業務を派遣スタッフに依頼した場合には「契約違反」になってしまう恐れがあります。
そのため業務で確実に発生する仕事だけではなく、必要になる可能性がある仕事まで契約書に記載しておくことをお勧めします。
(5)帰属意識の薄さからコンプライアンスやセキュリティリスクが懸念される
派遣人材は、派遣元企業から派遣されており、所属は派遣元企業です。さらに正社員と比較すると勤務期間が短く、就労期間が限定されていることから、帰属意識や当事者意識が低くなる場合があります。 帰属意識の薄い派遣社員による情報漏えいのリスクもあります。
派遣の導入が向いているケース
ここまでの内容を踏まえると、人材派遣が向いている業務は以下のようになります。
(1)短期で人材を確保しなくてはいけない場合
人材派遣が適しているシーンは、短期間で大量の労働力が必要な場合です。即戦力となる労働力を迅速に確保できるため、突発的な需要や一時的な人手不足を補うことが可能です。
例えば、大規模なイベントや季節ごとの繁忙期において、多くのスタッフが短期間で必要になる場合に適します。
また、急な欠員や従業員の長期休暇に対応する必要が生じることがあります。例えば、従業員の病気や休職、長期の育児休暇などで突然人手が不足した場合には、派遣社員を活用することで迅速に対応できます。派遣スタッフは即戦力として現場に派遣されるため、業務の流れを止めることなく、スムーズな業務運営を続けることができます。これにより、従業員の負担の増加を回避しつつ、業務の効率を維持することができます。
(2)専門的なスキルの人材を確保しなくてはいけない場合
特殊なスキルを持つ人材が一時的に必要な場合も、人材派遣は役立ちます。人材派遣では特定のスキルや経験を持つ専門職も用命できるため、特定のプロジェクトに対応する際に有効です。
例えば、自社システムを再構築する際にはプログラミングスキルを持つエンジニアが一時的に必要になります。このような場合、システムエンジニアを派遣してもらうことが、有力な選択肢となります。
(3)業務量が変動する業務
繁忙期と閑散期の差が大きい業務の場合は、繁忙期に合わせて人材を雇用すると、閑散期には人手が余ってしまいます。このような業務では、繁忙期で人手が足りない時期のみ単発で委託するなど、人材派遣を活用することで柔軟に対応できます。
人材派遣の注意点
以下、人材派遣を利用する際の注意点について説明します。
(1)派遣スタッフを選べない
派遣スタッフの受け入れは直接雇用ではありません。
そのため、自社は依頼したい業務にそった人材のリクエストをすることはできますが、そのリクエストに応じて誰を派遣するかは人材派遣会社が判断します。自社が誰を派遣スタッフとして受け入れるかを選ぶことはできません。派遣スタッフを選考することが目的の面接もできません。
(2)法律上できない業務がある
労働者派遣法によって、派遣スタッフができる業務に制限があります。
禁止されている業務は具体的には、港湾運送業、建設業務、警備業務医療関係業務、弁護士や社会保険労務士などの「士」業務です。
(3)二重派遣や偽装請負にならないように気を付ける
二重派遣とは、派遣会社から受け入れた派遣労働者を別企業に派遣し、別企業の指揮で働かせる行為です。二重派遣は中間搾取につながりかねないため、労働者保護の観点から認められていません。
偽装請負は、書類上は請負契約であるにもかかわらず、派遣労働者として扱い直接に指揮命令する行為です。請負である場合、労働者と発注者の間に指揮命令関係はありません。そのため、発注者が派遣労働者に対し作業内容に関して細かい指示を直接行うと派遣法違反になる恐れがあります。
まとめ
人材の確保が難しくなっている昨今、必要な時に必要なスキルを持った人材を短期間で活用できる人材派遣の活用は、多くの企業にとって欠かせなくなっています。 人材派遣を適切に活用することで、効率的な人員配置や専門性の高い人材の確保、コスト削減など、多くのメリットを享受できます。一方で、契約内容の明確化や法的リスクの管理など、注意すべき点もあります。
執筆者:税理士 渕上 肇