経理を外注する場合の料金はどのように決まるのか 費用を抑える方法とは

経理を外注する場合の料金はどのように決まるのか 費用を抑える方法とは

中小企業やベンチャー企業においては、自社で経理スタッフをそろえることが難しいのが現状です。

経理担当者には会計、税務、社会保険などの専門知識が必要であり、このような人材は大企業に集中する傾向にあります。少子化が進む我が国において、規模の小さいベンチャー企業や中小企業が経理担当者を採用することは、困難でしょう。

 

一方、自社で経理担当者を養成するには、多大の労力と時間を費やす必要があります。多忙をきわめる個人事業主や中小企業にとっては、負担が大きすぎるといえるでしょう。

 

そのため、ベンチャー企業や中小企業では、経営者自らまたは、その家族が経理事務を担当するケースが多く見受けられます。また、経理兼任の社員一人任せになっている場合もあります。経理兼任社員は、メインの仕事をこなしながら、経理を兼任しているのが一般的です。

 

そのようなときに、経理を外注することは、たいへん有効な手段です。

この記事では、中小企業の業務効率化を実現できる経理の外注サービスである経理代行について一通り解説するとともに、経理代行の料金体系、相場、料金を抑えるポイントについても説明します。

外注できる経理業務の内容 

経理代行サービスは、「自社の経理担当者の代わりに経理業務を受託する外注サービス」と言えます。

経理代行の業務の範囲は、日々の仕訳入力から帳簿作成、請求書事務、給与計算、振込作業、決算書作成、税務申告など多岐にわたります。

依頼できる主な業務は、次のとおりですが、外注依頼することができる業務の内容は、経理代行を担う会社によって異なる可能性があります。

①記帳業務

売上関係の取引先への請求書、仕入業者からの請求書、現金・預金の入金出金記録、経費の支払いなど、日々の営業取引を会計ソフトに入力します。会計ソフト上で、仕訳処理(伝票入力)をし、帳簿が作成されます。これらを記帳業務といいます。

 

記帳業務には複式簿記の知識が必要です。従業員に複式簿記の知識が無い、または不十分であれば、知識経験者の採用または教育が必要となります。採用コスト、教育コストが発生しますが、そもそも個人事業主や中小の企業の場合、社員教育に時間を割くことは、大きな負担です。

総合的に検討した結果、経理を外注する方が効率的、経済的と判断する場合も多いと思われます。

②売掛金管理、買掛金管理

売上データなどの資料に基づき、請求書を作成し、郵送やメール送付などにより取引先へ送付します。そして、取引先からの入金を確認し、入金漏れがないかを確認し、場合によっては督促します。

これらの業務はどうしても忙しい月末、月初の繁忙期に集中しがちでミスや漏れが起こりやすいです。

請求書の作成、発送漏れは会社の資金繰りに影響が及びます。

 

商品などの購入品代金の支払いは、一般的に月一回としている会社が一般的と思われます。支払いの遅延や間違いが発生すれば、購入先との信頼関係にかかわります。

 

経理を外注することにより、請求書発行、買掛代金の支払い、買掛金の消込といった煩わしい作業も正確に行うことができます。

③給与計算

事業主、会社役員、従業員に対する役員報酬や給与は毎月発生します。また年数回の賞与が発生する場合もあります。

給与計算では、健康保険、厚生年金保険、労働保険、所得税・住民税の知識が必要となります。

経理代行サービスでは、タイムカードなどの出勤簿の提供を受け、正確な給与計算をすることが可能です。

④年末調整

従業員への給与の支払いでは、源泉徴収義務が生じます。そのため12月には、月々の給与から徴収した所得税の清算を行います。この清算作業を年末調整といい、大事な経理事務の一つです。

賃金台帳や、従業員が作成した各種申告書(扶養控除等申告書、生命保険料控除申告書、基礎控除等申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除等申告書)をもとに、従業員一人一人の正確な年間所得税額を計算し、月々給与より徴収している所得税との過不足を清算します。

所得税の知識が必要で、年末の繁忙期の業務なので、外注に回したい業務の一つです。

⑤決算書の作成

会社は年一回、「確定申告書」を作成し税務署へ提出しなければなりません。

この「確定申告書」の作成では、法人税などの税務知識が必要です。申告書の提出期限までに税法の難解な文章を理解しながらの作業はとても労力を要します。

 

経理代行サービスでは、月次の記帳業務をベースに決算業務を行うことも可能です。決算書の作成、納付税額の計算を含む確定申告書の作成、税務署への提出、実際の納税実務の代行が可能です。

 

経理代行の料金体系

経理代行では、主に以下のような料金体系が採用されることが一般的です。

(1) 月額固定制

毎月一定の料金を支払う仕組みです。業務量が一定である企業に適しています。たとえば、月次決算や定期的な経費精算、給与計算などの標準業務をカバーする場合に相応しい料金体系です。

(2) 作業量ベース(従量制)

業務量や取引件数に応じて料金が変動します。業務量が変動する企業に適しています。取引数、仕訳件数、請求書発行数などの単価で料金が決定されます。

(3) パッケージプラン

基本業務(記帳代行、給与計算など)をセットにして提供されるプランです。個人事業主や小規模企業、新設法人向けに、経理業務全般をまとめて月額○万円で提供するケースなどが見受けられます。

(4) オプション料金

基本プランに含まれない特定の業務に対して追加料金が発生します。年次決算や税務申告、コンサルティング業務などがあります。

 

経理代行のケース別の料金相場

(1)記帳代行

記帳代行の料金は、「仕訳数」が目安になります。

1仕訳あたり100円前後(80円~120円)が一般的な料金とされているため、仕訳数が少ない場合は数千円程度で対応できるでしょう。

ただし、業者によっては最低料金が数万円で設定されていることもあるので、注意が必要です。

(2)給与計算

給与計算では、1人あたり月額1,000~2,000円が目安とされています。

(3)決算書の作成や決算申告

決算書の作成や決算申告などの業務は、経理アウトソーシング業者に依頼する場合は約5~20万円、会計事務所に依頼する場合は約15~25万円が相場とされています。

 

経理代行の料金の決まり方

(1)経理代行の料金を決める要素

①ボリューム

依頼業務のボリュームに応じて料金が設定されているケースです。

例えば記帳代行を依頼する場合、契約期間内に記帳を行う仕訳の件数によって料金が決まります。同様に、振込代行であれば振込を行う件数、支払代行であれば支払を行う件数など、対応を依頼する件数に応じた料金を支払います。「月間仕訳数100件までは1万円」などのように、契約期間の単位とあわせて料金が算出される場合もあります。

経理代行を依頼する企業の社員数によって料金が異なる業務も存在します。社員数に応じて対応件数が変動する給与計算や年末調整手続きなどの業務については、社員数の大小で料金が分けられるケースがあります。

②企業規模

資本金額や売上高が、基本料金に影響を与えます。

資本金額や前年の売上高の金額が多いほど基本料金も高くなります。

③業種や特殊な経理処理

一般に、海外取引や手形による取引、製造原価による計算、部門会計など、特殊な経理処理が必要となる場合も追加料金がかかります。

また、業種によっては特殊な経理方法が求められる場合があります。建設業、不動産業や金融業などが対象となります。これらの業種は、追加料金が発生すると考えて間違いありません。

(2)料金体系

①パッケージ化されたサービス

経理業務全般の代行を依頼する場合は、記帳業務に加えて、請求書発行、支払い・振込、給与計算など、基本となる経理業務を組み合わせて依頼することになります。

経理業務全般の代行を依頼する場合は、基本となる経理業務がパッケージ化された経理代行サービスを利用することをお勧めします。

経理業務の種類別に個別に料金を設定している代行業者もありますが、いくつかの個別のサービスを組み合わせて利用するよりも、パッケージ化されたサービスの方がコスト面でお得になることが多いですからです。

パッケージの内容は経理代行業者によって様々ですが、仕訳数や従業員数、希望する納期によってもパッケージ料金は異なるので、必ず詳細を確認しましょう。

パッケージに含まれていない業務を依頼する場合は、オプションで追加費用を支払うことになります。

②オプション料金

幅広い業務の代行を依頼したいとき、経理以外の業務も発注したいとき、代行を依頼する業務の件数が膨大であるとき、緊急を要するときなどは、オプション料金が必要となります。

具体的には、給与計算、予算管理や資金繰り表の作成、部門別会計、業種による特殊な会計処理、証憑書類のファイリングなどがオプションとなるケースが多いです。

オプションサービスを利用するのにかかるコストは、目安として次のようなものがあります。

給与計算では、1人あたり月額1,000~2,000円、資金繰表などの作成で5,000円~1万円が目安とされています。

決算申告まで依頼する場合、決算書類の作成のみにするのか、申告書類の提出まで全ての代行を依頼するのかで料金が異なります。

 

経理代行の依頼先

経理代行の主な依頼先として挙げられるのは、次の3つです。

(1)税理士事務所

税理士は、経理や決算、確定申告の専門家であるため、税理士事務所では、記帳代行をはじめ、支払い・請求管理や給与計算、決算申告まで幅広く対応しているところが多いです。 専門家である税理士に依頼することで、正確性・信頼性の高い業務が期待できます。
さらに経理代行だけでなく、年末調整、税務相談、申告まですべての業務をワンストップで依頼できる点がメリットです。 一方、税理士は専門家であるため、経理代行料金はやや高額となる傾向があります。

(2)アウトソーシング会社

アウトソーシング会社とは、経理代行を専門に行う会社のことです。記帳代行はもちろん、給与計算から年末調整、支払い請求管理、決算申告まで幅広い業務に対応しています。
 

税務申告は税理士の独占業務となるため、アウトソーシング会社に税理士が所属していない場合、その業者では原則として税務関連業務には対応していません。この場合、税務申告や年末調整に関しては、別途税理士と契約することになります。

 
税理士事務所と比べて、アウトソーシング会社の方が一般的に相場が安いことがメリットです。税務申告や年末調整を依頼しない場合には、アウトソーシング会社が有力な選択肢となります。
 

会社によってサービス内容や品質にばらつきがあるため、選定する際には十分注意しましょう。

(3)クラウドソーシングサービス

インターネット上のクラウドソーシングサービスでも経理代行をしている個人や企業が探せます。

 

経理の実務経験者や税理士試験科目合格者など専門知識を持つフリーランスが登録しており、繁忙期の経理業務や定期的な経理代行など、必要な時に必要なスキルを持つワーカーに依頼できコストパフォーマンスに優れています。 ただし、クラウドソーシングサービスでは、個々の委託先によってスキルにばらつきがあるため慎重に検討しましょう。

 

経理代行の費用をできるだけ削減する方法

経理をアウトソーシング会社に業務委託するにあたっては、中小企業や個人事業主にとっては、なるべく安く、質の良い委託先に依頼したいものです。

そのため、下記の項目をあらかじめ調査しておくことをお勧めします。

1)経理業務の所要時間を調べ依頼する業務範囲を絞る

現在、経理にどの業務にどの程度の時間を要しているのかを調べておくことが重要です。

経理業務のボリュームを把握しておくことで、料金レベルの予測が可能となり、交渉力が高まります。

経理の外注先を選ぶ際には、依頼する業務範囲を明確にする必要があります。予算を考慮したうえで、どの部分を外注するのかを具体的に決めましょう。外注する業務範囲を明確にし、効率化によって得られるメリットと発生するコストを比較検討し範囲を絞り込むことが重要です。

2)現在の経理業務フローを変更しデジタル化する

経理代行の料金を下げるには、属人化していた業務フローを簡略化する必要があります。

例えば、エクセルで行っていた請求業務をソフトウェアに置き換えるなど、代行作業が行いやすいように変更する必要があります。

また、全体業務の一部分を外注する場合には、前後の業務フローが変わる可能性があるため、事前に社内で検討する必要が出てくるかもしれません。

3)クラウドソフトを利用する

クラウド会計ソフトやクラウド請求ソフトなどを利用すると、これらのソフトは自動化が進んでいるため時間がかからず、情報もリアルタイムで共有されるため、代行料金の引き下げに有効です。

クラウド化することで経理資料を郵送する手間が省け、情報の共有がリアルタイムで可能となります。

4余裕をもって依頼する

決算のギリギリのタイミングで依頼すると時間的余裕がないため、料金が高くなります。

依頼するときは、時間的な余裕のあるタイミングで早目に依頼しましょう。

(5提出資料の状態に配慮する

経理代行を依頼する際、領収書や請求書・現金出納書などの資料を紙の状態で渡すより、デジタルデータで渡す方が、安くできる可能性があります。

また、紙で渡す場合も、何も手をつけていない状態で渡すと代行業者側で振り分け作業が必要になるため、追加費用が発生する可能性があります。

無理のない範囲で提出する資料を時系列にまとめたり、項目ごとに分類してすぐに参照できる状態にしておくと、委託先の作業工数が減るためコスト削減が見込めます。

 

.まとめ

経理代行は、活用の仕方次第で会計や経理業務を効率化し、経営者や自社スタッフが業務に専念できるようになる便利な外注サービスです。

費用や業者選定の重要性を理解した上で、自社のニーズに最適な形で活用することが大切です。メリットとデメリットを事前に検討し、信頼できるパートナーを選ぶことで、コスト削減と業務の効率化が実現できるでしょう。

なお、経理代行のメリットデメリットにつきましては、「経理代行とは? メリット、デメリットと選び方について解説」をご参照ください。

 

執筆者:税理士 渕上 肇