経理を外部に業務委託するときの委託先の選び方と注意点を解説

経理を外部に業務委託するときの委託先の選び方と注意点を解説

経理の業務委託とはどういうものか

経理業務を外部に委託することを一般的には、経理代行と言います。

経理代行サービスは、「自社の経理担当者の代わりに経理業務を受託する外注サービス」と言えます。 経理代行の業務の範囲は、日々の仕訳入力から帳簿作成、請求書事務、給与計算、振込作業、決算書作成、税務申告など、会社の経理業務を請け負ってくれるアウトソーシングサービスです。

(1)経理代行サービスの内容

依頼できる主な業務は、次のとおりです。 1.日時業務 記帳・仕訳入力 入出金 領収書や請求書など書類の整理 2.月次業務 給与計算 制空管理(売掛金管理) 支払管理(買掛金管理) 経費精算 3.年次業務 決算業務 税務申告業務 年末調整 実際には、依頼者のニーズに応じて柔軟に業務範囲が設定される場合が多いですが、依頼することができる業務の内容は、経理代行を担う会社によって異なる可能性があります。

(2)経理代行できない業務

経理代行では、あくまで経理業務を代行します。そのため、財務業務については代行できません。具体的には次のような業務ですが、そもそも外部に委託することに向かない性質の業務です。 経理代行の対象外となる業務 ・融資の申し込みなどの資金調達業務 ・予算管理 ・投資、M&Aなどの資産運用業務  

 

経理の業務委託と派遣の違い

経理人材の確保手段として雇用以外にまず思いつくのは、派遣ではないでしょうか。派遣と外部委託とで大きく異なるのは、主に契約の種類と、業務を行う場所、対価の対象です。

(1)業務委託とは

「業務委託」とは、企業などの依頼主が特定の業務を、外部の企業やフリーランスに任せる契約のことです。依頼主と受託者の間に雇用関係はありません。
依頼主は仕事のやり方働き方や時間を指示せず、結果や成果を求めるのが基本です。そして、受託者は自分自身の裁量によって業務を遂行します。

業務委託の仕事を請け負った人は、委託された業務を遂行し、報酬を受け取ります。  

業務委託契約においては、委託者と受託者は基本的に対等な関係にあり、受託者は業務を遂行するうえでの方法やスケジュールなどは自由に決められます。契約で定められた通りに成果物を期日までに納品する限りでは、業務を行う場所や時間も受託者が自由に決められます。

(2)派遣とは

派遣は、派遣会社に雇用された労働者が、派遣先企業に派遣されそこで働く形態を指します。 派遣社員自身と派遣先企業との間に雇用関係はありません。派遣社員と派遣会社は雇用契約を結び、派遣会社と派遣先企業は派遣契約を結ぶという関係になります。しかし、派遣社員への指揮命令権は派遣先企業にあるのが特徴です。

(3)業務委託と派遣の違い

経理業務を行う場所は、派遣の場合は自社内ですが、委託の場合は社外が多いですが、自社内もあります。

派遣社員の場合、労働時間に応じた対価を払いますが、委託の場合は業務の遂行によって報酬を支払います。うまく活用すれば、派遣より委託の方が低コスト・低ストレスです。  

 

経理業務の外部委託に向いているケース

経理業務の外部委託は、企業規模や業界・業種にかかわらず活用できます。

下記のようなケースに当てはまる場合、経理代行が課題解決の有力な選択肢です。

(1)経営者自らまたは、その家族が経理事務を担当するケース

経営者自らまたは、その家族が経理事務を担当するケースでは、本業が経理業務に圧迫されていると言えるでしょう。経営者やその家族は、本来は経営方針を決定し、マーケティング戦略を策定するべきで、経理業務を担当することは、本業がおろそかになるだけでなく、企業の成長を阻害することになりかねません。

(2)経理担当者の確保が難しい、採用しても定着しない

中小企業においては、経理担当従業員の採用が難しい、採用しても定着しないことがあります。経理担当者には会計、税務、社会保険などの専門知識が必要であり、このような人材は大企業に集中する傾向にあります。少子化が進む我が国において、規模の小さい個人事業主や中小企業が経理担当者を採用することは、現実的には困難であると言わざるを得ません。

(3)採用や育成に時間や費用をかけられない、本業に集中したい

そもそも採用には、多大の労力と時間がかかります。さらに採用後には、高額の社会保険料の負担と煩雑な社会保険事務、源泉徴収事務、年末調整、有給休暇、ハラスメント対策、メンタルヘルス対策などが必要となります。そのうえ、自社で経理担当者を養成するには、多大の労力と時間を費やす必要があります。多忙をきわめる個人事業主や中小企業、本業に集中したいベンチャー企業にとっては、負担が大きすぎるといえるでしょう。

 

経理の委託先

経理代行の主な依頼先として挙げられるのは、税理士事務所と経理代行業者の2つです。

(1)税理士事務所

税理士は、経理や決算、確定申告の専門家であるため、税理士事務所では、記帳代行をはじめ、支払い・請求管理や給与計算、決算申告まで幅広く対応しているところが多いです。 専門家である税理士に依頼することで、正確性・信頼性の高い業務が期待できます。さらに経理代行だけでなく、年末調整、税務相談、申告まですべての業務を依頼できる点がメリットです。 一方、税理士は専門家であるため、経理代行料金はやや高額となる傾向があります。

(2)アウトソーシング会社

アウトソーシング会社とは、経理代行を専門に行う会社のことです。記帳代行はもちろん、給与計算から年末調整、支払い請求管理、決算申告まで幅広い業務に対応しています。
税務申告は税理士の独占業務となるため、アウトソーシング会社に税理士が所属していない場合、原則として税務関連業務には対応していません。この場合、税務申告や年末調整に関しては、別途税理士と契約することになります。 税理士事務所と比べて、アウトソーシング会社の方が一般的に相場が安いことがメリットです。税務申告や年末調整を依頼しない場合には、アウトソーシング会社が有力な選択肢となります。

会社によってサービス内容や品質にばらつきがあるため、選定する際には十分注意しましょう。

(3)クラウドソーシングサービス

インターネット上のクラウドソーシングサービスでも経理代行をしている個人や企業が探せます。

経理の実務経験者や税理士試験科目合格者など専門知識を持つフリーランスが登録しており、繁忙期の経理業務や定期的な経理代行など、必要な時に必要なスキルを持つワーカーに依頼できます。 ただし、クラウドソーシングサービスでは、個々の委託先によってスキルにばらつきがあるため慎重に検討しましょう。  

 

経理を業務委託するメリット

(1)コスト削減

経理担当者を配置するとなると人件費がかかります。募集から採用までの活動費、採用後の給与、通勤費、雇用契約によっては社会保険料(会社負担分)、などのコストが発生します。

その他、人事労務管理として適正な休暇、公平な人事評価、福利厚生の提供、人材育成の観点での外部研修などの教育、ハラスメントなどのコンプライアンス対応などが生じます。

経理代行サービスに委託した場合、委託した業務範囲や企業規模にもよりますが年間数十万円で済む場合もあります。人事労務管理に手間をかけたくない、コストを削減したいという場合は、経理代行サービスを利用することをお勧めします。

(2)本業に集中

事業主、会社経営者が経理実務を行っていたり、現場作業担当と経理担当が兼任であったり、経理業務の負担が大きく、本業に集中できないといった状況が継続的に続いている場合があります。

経理代行サービスに委託すれば経理業務の負担が大幅に軽減され、本来業務に集中できます。

(3)専門知識にもとづくサービスが受けられる

会計・税務知識にもとづく「会計処理」、「節税対策」、「税務申告」を自社独自で進めるのはとても難しいことでしょう。専門的な知識を持つ経理代行サービスへ委託することにより記帳代行のみならず、日々の税務相談、会社にとって有利な節税対策などアドバイスを受けることができます。

また、税法など頻繁に行われる法改正に対しても、すばやく具体的に対応してもらえます。

(4)ミスや不正の防止

経理業務は、正確性が求められます。しかし、細かな数値の管理が多い分、ミスが発生しやすい業務でもあります。

また、横領といった不正のリスクもあります。

経理代行サービスを導入することで、第三者としてのチェックが入りますので、ミスや不正の防止につながり、業務の適正化につながります。

(5)法改正などへの対応

税金制度や社会保険制度の改正があるごとに業務フローやシステムの変更が求められます。経理アウトソーシング業者は、税法など頻繁に行われる法改正に対しても、すばやく対応してもらえます。

 

経理を業務委託するデメリット

経理代行サービスを利用するにあたっては、メリットがある反面、デメリットもあります。

(1)情報漏洩リスク

経理アウトソーシングをするこということは、社内の個人情報や機密情報をそのアウトソーシング先に提供することになります。その際には当然ながら漏洩リスクがあります。

(2)社内に経理事務のノウハウが残らない

長年の経理事務経験者ともなれば、その会社特有の知識やノウハウが育成されていると思われますが、経理代行サービスに経理業務を依頼するとそれらノウハウの社内での引き継ぎが行われないこととなり、また従業員の経理スキルの育成もできません。

(3)外部とのコミュニケーションの問題

外部(経理代行業者)の経理担当者との連携が必要になるため、情報共有や意思疎通に時間がかかる場合があります。不十分なコミュニケーションがミスやトラブルの原因となることもありうるので、注意が必要です。

(4)緊急対応が困難

予期せぬトラブルや突発的な税務調査が発生した場合、外注先に頼ることになるため、即座に対応できない可能性があります。経理資料、たとえば領収書・請求書などを経理代行業者に預けている場合、特に注意が必要です。

(4)業者への依存リスク

経理代行サービスに長期間依存すると、次のような問題が生じる可能性があります。

①切り替えコストの発生

他の業者に変更する際や、経理業務を再び内製化する際に、引き継ぎやシステムの調整に多大なコストと時間がかかる場合があります。

②契約終了時のリスク

委託先が倒産したり、契約を打ち切った場合に、業務が滞る可能性があります。

 

委託先の選び方

(1)依頼したい業務に対応しているか

経理代行サービスの対応業務や範囲は、委託先によって異なります。まずは自社で依頼したい業務内容をすべて洗い出し、依頼する範囲を明確に決めておきましょう

(2)実績・信頼度

経理代行会社の実績や評判の良さは重要です。導入事例などを見ておきましょう。導入社数の多さなども判断材料になります。 さらに、口コミ・評判を調べておきましょう。 初回相談の際に実績を確認しておくことも重要です。

(3)サポート体制は充実しているか

経理業務には、トラブルが発生することがあります。このようなときに、迅速に対応してくれるサービス体制が整っているか確認しておくことも重要です。また、業務量が変動した場合にも柔軟に対応できるかという点も確認しておきましょう。

(4)セキュリティ対策

経理代行サービスを利用するには、自社の経理に関する情報や従業員の個人情報を、共有することになります。そのため、セキュリティ対策が徹底されていない代行会社に依頼してしまうと、情報漏洩に繋がるリスクが高まります。 契約する前に、セキュリティポリシーの詳細を確認するとともに、プライバシーマーク(Pマーク)やISOなどの認証の有無についても確認しておく必要があります。  

経理代行サービスを導入する際の注意点

経理代行サービスの依頼先は、税理士事務所、経理代行会社などさまざまです。依頼先選定では下記のポイントに注意しましょう。

(1)依頼する業務範囲を明確に

経理代行サービスの依頼先選定前に、どんな経理業務を依頼したいのか把握しておく必要があります。 代行依頼可能な業務にも限りがある場合や、オプションなどの追加料金が発生する場合もあります。 依頼したい業務の内容をリストアップしておくことをお勧めします。

(2)税理士がいるかどうか

年末調整、税務申告の経理業務を依頼したいと考えている場合は、法律上これらの業務は税理士でなければ代行できません。依頼先に税理士がいるか確認しましょう。

(3)親切で、きめ細かいサービスや指導を提供してくれるかどうか

経理代行サービスでは、必要書類の受け渡しなどの最低限のやり取りが発生します。書類の受け渡しにタイムラグが生じる、コミュニケーションが取りづらいと代行業務がなかなか進みませんし、それらに気が取られ本来業務に集中できない場合が発生します。 また、提供した書類の不備についても親切丁寧にその必要性などを指導してくれることも重要です。 さらに、継続的に経理代行を利用していく中で、他の業務にも対応してほしい場面があるはずです。最初に契約した内容でした対応してくれず、途中の変更をしてくれないこともあります。代行してくれる業務範囲はどこまでなのか、また例外的な業務にも相談などの対応をしてくれるのか、事前に確認しておくことをお勧めします。

(4)機密情報の取り扱いに要注意

経理代行サービスを依頼する場合は、領収証、請求書、従業員の給与、個人情報などさまざまな情報をやり取りします。そのため送付先の間違いや紛失が起こると社内機密情報が流出してしまいます。 これら機密情報の取り扱いには充分に注意が必要ですが、同時に経理代行サービス業者を選定する際にも慎重に、信頼できる業者を選ぶ必要があります。 依頼業務の打ち合わせ時に機密情報の取り扱いを具体的にどのようにしているか充分に確認してください。  

 

執筆者:税理士 渕上 肇