消費税の簡易課税とは?メリットデメリットについて解説
目次
消費税の簡易課税制度とは
消費税として税務署に納める金額は、次の計算方法で計算します(原則課税)。
しかし、中小企業においては、この方法によって取引ごとに消費税を集計していくことは事務負担が大きいため、簡便的な方法として、簡易課税制度が設けられています。
簡易課税制度は、中小事業者の納税事務負担に配慮する観点から、事業者の選択により、売上げに係る消費税額を基礎として仕入れに係る消費税額を算出することができる制度です。
具体的には、その納税地の所轄税務署長に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出した課税事業者は、その基準期間(個人事業者は前々年、法人は前々事業年度)における課税売上高が5,000万円以下の課税期間について、売上げに係る消費税額に、事業の種類の区分(事業区分)に応じて定められたみなし仕入率を乗じて算出した金額を仕入れに係る消費税額として、売上げに係る消費税額から控除することになります。
簡易課税の計算方法
具体的な計算の流れは次のようになります。
① 売上にかかった消費税の総額を計算する
② ①で計算した「売上にかかる消費税額」に、自社の事業の「みなし仕入率」を掛け合わせて、「仕入控除税額」を出す
③ ①から、②を差し引く
これを算式で表すと次のようになります。
この簡易課税のメリットは、課税仕入に関して支払った消費税額の集計を省略できる、ということです。
つまり、「売上にかかる消費税額」のみの集計で計算できるのです。
消費税の簡易課税の適用を受けるための要件
消費税の簡易課税は、事務負担に配慮された制度ですので、すべての事業者で選択できるのではなく、小規模な事業者のみが適用することができます。簡易課税を適用できる小規模事業者とは、基準期間(課税期間の前々年または前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下の法人をいいます。また、原則として適用する課税期間開始の日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出しておく必要があります。
基準期間とは、簡易課税制度の適用を受けようとする期間の2年前を指し、個人事業者はその年の前々年、法人は原則として、その事業年度の前々事業年度のことです。
たとえば、個人事業主の場合、2025年に簡易課税を適用できるかどうかは、その前々年である2023年の課税売上高が5,000万円以下かどうかで判断します。さらに、適用する場合は、2024年12月末日までに「簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出しておく必要があります。
なお、「簡易課税制度選択届出書」は一度提出すれば、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出しない限り有効です。たとえば、基準期間の課税売上高が5,000万円を下回り簡易課税を適用し、翌年は課税売上高が5,000万円を超えたため原則課税を適用したものの、再び課税売上高が5,000万円を下回ったような場合には、再び「簡易課税制度選択届出書」を提出しなくても自動的に簡易課税が適用されることとなります。
事業区分はどう決められているか
簡易課税を適用する際に用いる業種毎に定められた一定割合(みなし仕入率)は、次のように6つの区分により決められています。
事業区分 | みなし仕入率 | 事業 |
第一種事業 | 90% | 卸売業 |
第二種事業 | 80% | 小売業 |
第三種事業 | 70% | 農林漁業、鉱業、建設業、製造業等 |
第四種事業 | 60% | その他の事業(飲食店業など) |
第五種事業 | 50% | 運輸通信業、金融・保険業、サービス業(飲食店業に該当する事業を除く)等 |
第六種事業 | 40% | 不動産業 |
事業用の固定資産を売却したときの課税売上高は、第四種事業に該当することとなります。
また、令和元年(2019年)10月1日を含む課税期間からは、第三種事業に含まれる農業、林業、漁業のうち消費税の軽減税率が適用される飲食品の譲渡を行う事業分を第二種事業として扱い、みなし仕入率は80%(現行70%)が適用になっていますのでご注意ください。
複数の事業を行っている場合の計算方法
(1)複数の事業を営む場合の原則
2種類以上の事業を営んでいる場合は事業を区分し、事業ごとの消費税額にみなし仕入率を乗じて、それぞれを足していくことで仕入控除税額を求めます。
(第1種事業にかかる消費税額 × 90%) + (第2種事業にかかる消費税額 × 80%)+ (第3種事業にかかる消費税額 × 70%) + (第4種事業にかかる消費税額 × 60%) + (第5種事業にかかる消費税額 × 50%) + (第6種事業にかかる消費税額 × 40%)
(2)複数の事業を営む場合のの特例
複数の事業を営む場合には、条件を満たすことで、ひとつのみなし仕入れ率を全体の課税売上高に対して適用できる特例があります。
①2種類以上の事業を営んでおり、そのうち1種類の事業の課税売上高が、全体の課税売上高の75%以上を占める場合
1種類の事業で全体の課税売上高の75%以上になるときは、その75%以上を占める事業のみなし仕入れ率を全体の課税売上高に対してそのまま使います。
②2種類の事業の課税売上高の合計額が、全体の課税売上高の75%以上を占める場合
2種類で全体の課税売上高の75%以上になるときは、その75%以上を占める2つの事業のうち、みなし仕入率が高い方の事業にかかる課税売上高にはその事業のみなし仕入率を、それ以外の課税売上高には、低い方のみなし仕入率を適用することができます。
事業を区分していない場合
2種類以上の事業を区分せずに営んでいる場合には、区分をしていない事業の中でいちばん低いみなし仕入率を適用して、仕入控除税額を計算します。
事業区分の判定
事業者が行う事業が第1種事業から第6種事業までのいずれに該当するかの判定は、原則として、その事業者が行う課税資産の譲渡等ごとに行います。
第1種事業
卸売業には、消費者から購入した商品を品質または形状を変更しないで他の事業者に販売する事業も含まれます。また、業務用小売であっても事業者に対する販売であることが帳簿、書類等で明らかであれば卸売業に該当することになります。
第2種事業
食料品小売店が他から仕入れた食料品を加工せず店頭販売する場合は第2種事業(小売業)になります。他から購入した食料品を、その小売店舗において、仕入商品に軽微な加工をして販売する場合で、加工前の食料品の販売店舗において一般的に行われると認められるもの(切る、組み立てる、混ぜ合わせる、たれ漬けする等)で、当該加工後の商品が当該加工前の商品と同一の店舗において販売されるものについては、第2種事業になります。
第3種事業
第3種事業は、おおむね日本標準産業分類の大分類に掲げる分類を基礎として判定します。なお、次の事業は、第3種事業に該当します。
① 自己の計算において原材料等を購入し、これをあらかじめ指示した条件に従って下請加工させて完成品とする、いわゆる製造問屋
② 建設工事の元請
③ 天然水を採取して瓶詰等して人の飲用に販売する事業
④ 出版業
⑤ 自社で製造したパンやケーキなどを販売する製造小売りの場合は第3種事業に該当します。宅配専門ピザ店も、第3種事業になります。
第4種事業
飲食設備がある飲食店が行う出前やデリバリーは第4種事業に該当します。パン屋が店内のカフェスペースで飲食させる場合も「飲食業」とみなされ、第4種事業になります。
ホテルはサービス業に分類され第5種事業になりますが、次のものは第4種事業に分類されます。
① ホテル内にある宴会場、レストラン、バー等のように、そのホテルの宿泊者以外の者でも利用でき、その場で料金の精算をすることもできるようになっている施設での飲食物の提供
② 宿泊者に対する飲食物の提供で、宿泊サービスとセットの夕食等の提供時に宿泊者の注文に応じて行う特別料理、飲料等の提供や客室内に冷蔵庫を設置して行う飲料等の提供のように、料金体系上も宿泊に係る料金と区分されており、料金の精算時に宿泊料と区分して領収されるもの
また、事業者が自己において使用していた固定資産の譲渡を行う事業は、第4種事業に該当することになります。
第5種事業
第5種事業も、第1種事業から第3種事業以外の事業とされる事業を対象として、おおむね日本標準産業分類の大分類に掲げる分類を基礎として判定します。
なお、日本標準産業分類の大分類の区分が運輸通信業、金融・保険業、サービス業に該当するものは、「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業」であっても、第5種事業に該当します。
なお、宿泊業で例えば、「1泊2食付で2万円」というように、食事代込みで宿泊料金が定められている場合は、その料金の全額が第5種事業となります。
第6種事業
第6種事業は、日本標準産業分類の大分類の区分が不動産業に該当するものをいいます。
このように、事業の中でも取引の内容によっては、ほかの業種として区分しなければならないこともあるので、事業区分の判断は慎重に行いましょう。
特に、複数の事業を営んでいる場合は、それぞれの事業区分をしっかりと行わなければ、正確な仕入控除税額が算出できない可能性があります。判断に迷ったときは税理士に相談をすることをおすすめします。
国税庁参考サイト
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6509.htm
簡易課税制度のメリット
消費税の納税額を想定しやすい
原則課税の場合、納税額を把握するためには、全ての取引を把握し仕入控除税額を計算しておかなければなりません。
しかし、簡易課税制度であれば、売上だけ把握しておけば消費税の納税額を容易に推定できる点が最大のメリットです。
消費税の計算の手間を削減できる
簡易課税制度を適用しない場合、一取引ごとに仕入れにかかった消費税を税率ごとに分けて仕入控除税額を計算しなくてはいけません。しかし、簡易課税制度の適用を受けると、仕入取引にかかる消費税の管理が不要になり、このような手間が省けます。
簡易課税制度では、2つ以上の事業区分にまたがって事業をしている場合は、事業区分ごとにみなし仕入率をかけて仕入税額控除を算出しなくてはいけませんが、事業区分が1つの事業者であれば取引の内容ごとに事業区分を分ける必要がないため、より簡単に仕入税額控除を求められます。
消費税の節税につながることがある
簡易課税制度では、実際にどの程度の消費税が発生したかに関わらず、事業区分に応じてみなし仕入率をかけて仕入控除税額を算出します。そのため、利益率の高い会社においては実際に発生した消費税よりも簡易課税で計算した納税額の方が少なくなる可能性があります。
通常の方法と簡易課税制度による方法と両方で消費税額を求め、比較して初めて節税が可能かどうか分かります。消費税の節税を目指すのであれば、手間はかかりますが一度は計算して比較しておくことが必要です。
簡易課税制度のデメリット
2年間は強制適用され一般課税に戻せない
簡易課税制度を選択すると、2年間は一般課税に戻せません。
なお、2年が経過して一般課税に切り替えたいときは、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出しなければなりません。提出しなくても基準期間の課税売上高が5,000万円を超えている場合は強制的に一般課税が適用されますが、売上高が下がった場合には簡易課税が強制され一般課税による計算はできません。
原則課税より納税額が増えることもある
簡易課税制度を適用している場合は、支出によって支払った消費税額が仕入税額控除に反映されないため、算出される消費税額が実際よりも増えることになってしまいます。その他にも、取引の内容によっては、実際に発生した消費税額よりも簡易課税制度によって求める消費税額が多いこともあるので注意が必要です。
複数の事業を営む場合は計算が複雑になる
複数の事業を営む場合、計算が複雑になる点が簡易課税制度のデメリットです。
1種類の事業のみを営む場合、基本的に受け取った消費税額に、該当するみなし仕入率をかけるだけで仕入控除税額を算出できます。しかし、第1種事業から第6種事業のうち、複数の種類の事業を営む場合は、原則としてそれぞれ異なるみなし仕入率をかけて計算しなければなりません。そのため、計算が複雑になります。ただし、これは、あくまでも年1回の決算時の三のことですので、原則課税よりは楽だと言えるでしょう。
執筆者:税理士 渕上 肇