業務委託のメリット・デメリットとは?選び方のポイントや注意点についても解説

業務委託のメリット・デメリットとは?選び方のポイントや注意点についても解説

現代の企業経営において、業務の効率化とコスト削減は最優先の課題です。「人手が足りない」からといって、新たに人を採用することはかえって非効率になる恐れがあります。 また、中小企業にとっては、新たに募集しても専門的スキルのある人材が集まる時代ではありません。そのため、特定の業務を外部に委託することは有力な手段と考えられます。 本記事では、業務委託の基本的な内容を解説し、そのメリット・デメリットについて詳しく解説します。  

業務委託とは

業務委託契約は、業務の発注者(委託側)が、受注者である相手方(受託側)に対して何らかの業務を委託し、受注者は発注者から委託された業務を遂行し、対価を受け取る取引の際に締結される契約です。

企業が一時的な仕事の増加や特定の専門知識を必要とする場合、または個人がスキルや専門知識を活かして収入を得る場合などに利用されます。業務委託の仕事を請け負った受託業者は、委託された業務を遂行し、報酬を受け取ります。

業務委託契約においては、委託者と受託者は基本的に対等な関係にあり、受託者は業務を遂行するうえでの方法やスケジュールなどは自由に決められます。契約で定められた通りに成果物を期日までに納品する限りでは、業務を行う場所や時間も受託者が自由に決められます。

 

業務委託契約の種類

業務委託契約には、「請負契約」「委任契約」「準委任契約」という3種類の契約があります。業務委託契約は、この3種類の契約の総称だということに注意が必要です。

(1)委任契約(準委任契約)

委任契約とは、発注者が受注者に法律行為の遂行を委託し、受注者はその業務を遂行することで報酬を受け取る契約です(民法第643条)。

委任契約は、業務遂行を目的とした契約です。業務を行うことに対価が支払われるため、成果物の有無は問われません。

具体例として、行政書士に申請手続きを依頼する場合や、税理士に確定申告を委託する場合などが該当します。

受託者には善管注意義務が課せられるケースが一般的であるため、依頼者に不利益が生じないよう、業務遂行にあたっては細心の注意を払うことが求められます。 準委任契約とは、委任契約と同様ですが、法律行為以外の業務にも適用される契約です。準委任契約と委任契約とが異なる点は、委託する業務が法律行為かどうかのみです。そのため、準委任契約と委任契約を区別せず、まとめて「委任契約」と呼ぶことも多いようです。

エンジニアやWEBデザイナー、ライターなどの業務は法律行為ではないため、準委任契約となります。

(2)請負契約

請負契約とは、当事者の一方(請負人)が、ある仕事を完成させることを約し、相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払うことによって成立する契約です。「仕事を完成させること」が目的とされていることがポイントで、仕事を完成させないと報酬を請求できません。

業務行為自体に報酬が支払われる委任契約とは違い、請け負った業務を最後まで完成させる義務があります。請負契約の場合、「仕事の完成」が目的になっており、そこには一定のクオリティに達した成果が必要になります。納品した成果物に欠陥があった場合には修正や報酬の減額、損害賠償などの責任を負う可能性があります。また、契約で定められた期日までに成果物を納品できなかった場合も、損害賠償責任を負う場合があります。

 

業務委託契約と雇用契約との違い

業務委託契約と雇用契約の違いは、使用従属性の有無です。

雇用契約を結んだ場合、働く人は「労働者」となり雇用主からの指示や命令に拘束力が生じます。

一方、業務委託では発注側からの強制的な指示や命令は受けず、受託者が自らの裁量で業務を進めることができます。

また受注側は「労働者」ではないため、労働基準法などは適用されません。  

業務委託のメリット

業務委託を利用するメリットは以下の通りです、

(1)外部の専門的な人材やノウハウが活用できる

業務委託のメリットで最も注目すべき点は、専門性の高い業務を外部の専門家に任せることで、質の高い業務を効率的に遂行してもらえるということです。これにより、自社にない技術やノウハウを活用でき、生産性を向上させることが可能となります。 また、高度な専門知識を必要とする非中核業務では、社内で人材を確保するよりも、経験豊富な業務委託の専門家に依頼する方が短期間での成果を期待できるでしょう。

(2)本業に集中することにより生産性が向上する

業務委託を活用すると、自社業務の生産性を向上させる効果を期待できます。周辺業務を外部に委託することで、経営資源を重要な戦略的業務に集中投下できるのです。 社内で対応するには難しい業務や、誰にでもできる付加価値の低い定型業務を外部に委託して、売り上げに直結する自社の中核業務に集中できる環境が整います。 人材の適材適所も実現しやすくなり、業務効率化や組織の生産性向上が期待できます。

(3)人件費を削減できる

業務委託を利用する企業側のメリットとして、人件費とその関連コストを抑えられることが挙げられます。 たとえば、業務委託は自社で雇用するわけではないため、健康保険料や厚生年金保険料、雇用保険料などの社会保険料を負担する必要はありません。 教育コストを抑える効果も期待できます。 ​​自社で専門外の業務を行うには、社員を教育するところから始めなければなりません。​​自社の社員が知識を身につけるには、時間と費用がかかってしまいます。 しかし業務委託を活用すれば、必要なスキルを備えた人材を即戦力として活用できます。短い時間で成果を出しやすくなるため、専門外の業務に関しては業務委託を活用したほうが最終的にコストを抑えられると言えるでしょう。

(4)採用難易度の高さが壁となる職種・業種の人材確保

本来なら直接雇用したい、というときなどでも職種や業種によっては採用が難しい場合があります。また、専門性が高い職種や業種は、そもそも人材の確保が難しいものです。 こういった場合に、業務委託を利用することで必要な人材を確保することができます。  

業務委託のデメリット

業務委託を利用すれば専門知識を有するプロに業務を任せられるメリットがある一方で、以下のようなデメリットもあります。

(1)社内にノウハウが蓄積されにくい

業務委託を活用することで、専門家の知見を短期間で導入できますが、業務が外部に依存するため、社内に業務フローやプロセスを詳しく理解している人材がいなくなる恐れがあります。そのため、内部にノウハウや技術が蓄積されにくくなります。 ノウハウが蓄積されなければ業務の内製化も困難になり、結果として継続的に業務委託に頼らざるを得なくなる可能性があります。

(2)指揮命令権がない

業務委託契約では、委託する側に指揮命令権がありません。そのため、業務の進め方や時間配分などを管理することが難しくなりがちです。進め方や進捗を見ながらの細かい指示ができないため、品質は受託者の能力や意欲に依存しやすい点はデメリットといえるでしょう。

(3)情報漏洩のリスクが高まる

委託する業務によっては、外部の人材が自社の顧客情報や機密情報を扱うことになるため、情報流出のリスクが高まります。 委託先に機密情報を開示する場合、適切な管理体制が整っているかしっかりと確認しましょう。また、契約時に機密保持契約(NDA)を締結し、情報管理のルールを明確にしておくこともおすすめします。

(4)専門性の高さに応じて報酬が高くなる

あまり専門性が高くない業務の場合は、業務委託によって人件費を抑えられます。一方、専門性の高い業務を委託すると報酬が高額になることが多く、自社の社員に任せるよりも大きなコストが発生することがあります。

しかし、費用がかかる場合でも、メリットとなることがあります。例えば、有名なクリエーターやアーティストへの発注であれば、その仕事によって費用を大きく上回る売上が出るかもしれません。あるいは、専門性の高い高品質な仕事によって生産性の向上につながるケースもあるでしょう。仮にコスト高であっても、短期間で完成するというケースもあります。

このように業務委託では、委託先の仕事の品質とそれによる影響、内製する場合の費用や期間など、総合的に検討する必要があります。  

 

委託会社の選定方法

せっかく自社の業務を外部企業に委託したが、思うような導入メリットを得られなければ、元も子もありません。また、万が一情報が漏れてしまった場合、事業の継続に多大な影響を及ぼします。そうならないように、失敗しない選び方を押さえましょう。

(1)対応業務の範囲

 非常に広範囲に及ぶ経理業務。アウトソーシング事業者やサービスによって、委託できる業務は異なるため、事前に委託したい業務が対応範囲内か確認しておきましょう。

 アウトソーシング事業者は、経理業務をすべて委託できる事業者から、一部の業務を低コストで担当してくれる事業者までさまざまです。経理担当者のリソースや自社の今後の採用予定などとあわせて、適切な事業者・サービスを選ぶことが大切です。

(2)実績・信頼度

経理代行会社の実績や評判の良さは重要です。導入事例などを見ておきましょう。導入社数の多さなども判断材料になります。

さらに、口コミ・評判を確認するのも大切です。特に知名度のある大きな事業者やサービスを検討している場合は、口コミやレビューなどを調べておきましょう。

初回相談の際に実績を確認しておくことも重要です。

(3)情報/セキュリティ管理

アウトソーシングする際には、情報漏えいのリスクがあることがデメリットです。
どのようなセキュリティ対策を練っているか、相手側に必ず事前に確認しましょう。サイバー攻撃への対策、個人のミス等による情報漏洩の防止策など、あらゆるリスクを想定した対策が練られているかが重要なポイントです。
 
事業者が情報管理に関するポリシーなどをウェブサイトで公開している場合は、それも確認しておきましょう。
情報漏えいリスクを抑える方法として、セキュリティーポリシーの確認、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)やPマーク(プライバシーマーク)の取得の有無も確認しておくことをお勧めします。
 
また、事前に個人情報、特定個人情報、秘密保持の契約は必ず締結することも重要です。

(4)対応スピード/柔軟性

 業務委託先を選ぶ際は、どれだけ迅速かつ柔軟に対応してくれるかも確認しておきましょう。突発的な依頼にはどれくらいの日数で対応してくれるか、コミュニケーションはスムーズかなどは、事前に相談・判断していくことをオススメします。

さらに、継続的に業務委託先を利用していく中で、他の業務にも対応してほしいという状況も出てきます。最初に契約した内容でした対応してくれず、途中の変更をしてくれないこともあります。

業務量の増減にはどこまで対応してくれるのか、また例外的な業務にも柔軟に対応をしてくれるのか、事前に確認しておくことをお勧めします。

 

業務委託を行う際の注意点

(1)業務内容を明確に

業務委託契約を締結する前に、業務内容を明確にしておくことが重要です。

業務内容について食い違いがあると、受託者が「仕事が終わった」と考えていても、委託者が「まだだ」と主張するトラブルが発生しやすくなります。

トラブルを防ぐために、中心的な業務内容はもちろん、付随する業務についても、どこまでが範囲なのかを明確にしておくべきです。

例えばデザイナーに依頼する場合に、完成したデザインに修正を要求できるか、追加料金は発生するかなどを明確にしておくとトラブルを回避できます。

業務内容は、業務委託契約の根幹であるため、できる限り詳細に取り決めしておくことがポイントです。

(2)業務遂行のための経費・交通費の負担

一般的に、請負契約の場合、業務を遂行するために必要な費用は受託者の負担を原則としています。これに対して委任契約における費用の負担については、委託者の負担が原則とされています。経費の支払いについて事前に取り決めがないと、受託者との間でトラブルに発展する恐れがあります。

トラブルを避けるには、具体的にどのようなものが経費として認められるかなどを受託者と確認しておく必要があります。

(3)再委託の可否は慎重に検討

業務委託では、「再委託」という事態も発生する可能性があります。再委託とは、受託者が依頼された業務を第三者に委託することです。

再委託を認める場合、最初の受託者と再委託先とが業務を行うため、納期短縮などのメリットがあります。一方で、業務に関連する様々な情報が漏洩するリスクが高まったり、仕事のクオリティが低下するというデメリットも懸念されます。

そもそも受託者自身のスキルや実績などを信用して業務委託契約は交わされます。再委託を認める場合には、再委託先が信頼できる受託者かどうか、情報セキュリティ対策の実施の有無などを事前に確認しておくことが必要となります。そのため、再委託を禁止するか、あるいは、再委託は二次請けまでにするなどの制限を明確にしておきましょう。

(4)中途解約や損害賠償に関するルールを明記

請負契約では、成果物の納品前に契約を解除することはできますが、損害賠償の支払いが発生する可能性があります。

委任契約や準委任契約では、委託者側と委託者側のどちらからも、時期を問わずに契約を解除することが可能です。しかし、相手方に不利な時期での中途解約となる場合は、損害賠償の支払いが発生するリスクがあります。

トラブルなく中途解約を行うには、双方の合意が重要です。業務委託契約書に、あらかじめ契約解除に関するルールを明記しましょう。

また、どのような条件で違約金の支払いが発生するのか、どのような場合に損害賠償請求が行われるのかなども契約書に記載しておくことをお勧めします。

 

まとめ

人材の確保が難しくなっている今、必要な時に必要なスキルを持った人材を短期間で活用したり、一部の業務を外部に委託する業務委託の活用は、多くの企業にとって欠かせなくなっています。 業務委託を適切に活用することで、効率的な人員配置や専門性の高い人材の確保など、多くのメリットを享受できます。一方で、契約内容の明確化や法的リスクの管理など、事前に十分に検討しましょう。

 

執筆者:税理士 渕上 肇