インボイス制度の2割特例とは?簡易課税との関係も解説します

目次
インボイス制度において、免税事業者からインボイス発行事業者になる場合、今までは納税していなかった消費税を今後は納税しなければなりません。これは少なからず個人事業主やフリーランス、中小企業にとって大きな負担です。
これを軽減するのが、経過措置である「2割特例」です。2割特例とは、免税事業者からインボイス発行事業者になった場合に、売上の消費税額の2割を納税額とするだけで済ませる制度です。
以下、この記事で詳しく解説します。
1.経過措置とはどういうものか
そもそもインボイス制度とは
仕入税額控除とは
消費税は消費者が負担しますが、納税は課税事業者が行います。課税事業者は、売上げに係る消費税額から、仕入れに係る消費税額を差し引いて計算した額を納税します。
売上で受け取った消費税額から、仕入れで支払った消費税額を差し引くことを「仕入税額控除」と言います。
具体的には、消費税として税務署に納める金額は、次の計算方法で計算します(原則課税)。
インボイス制度の概略
2023年10月にインボイス制度がはじまると、この仕入税額控除をするためには、原則として、仕入先からインボイス(適格請求書)を発行してもらい、保存しておく必要があります。
このインボイスは、税務署長の登録を受けたインボイス発行事業者(登録事業者)のみが発行できます。つまり、仕入先にインボイスを発行してもらうには、仕入先が税務署にインボイス事業者として登録する必要があります。つまり、仕入先がインボイス発行事業者であるか確認する作業が必要となってきます。
仮に、仕入先がインボイス発行事業者ではなかった場合、そこから仕入れた取引は、仕入税額控除ができず納税する消費税の額が増えてしまいます。
売り手と買い手の義務
<売手側>
売手である登録事業者は、買手である取引相手(課税事業者)から求められたときは、インボイスを交付しなければなりません(また、自らが交付したインボイスの写しを保存しておく必要があります)。
<買手側>
買手は仕入税額控除の適用を受けるために、原則として、取引相手(売手)である登録事業者から交付を受けたインボイスの保存等が必要となります。
ただし例外として、買手はインボイスの保存に代えて、買手が自ら作成した仕入明細書等のうち「一定の事項(インボイスに記載が必要な事項)が記載され取引相手の確認を受けたもの」を保存することで、仕入税額控除の適用を受けることもできます。
経過措置とは
2023年10月1日のインボイス制度の導入後は、原則としてインボイス(適格請求書)を保存しない限り、仕入税額控除が受けられなくなります。このため、事業者の税負担及び事務負担が増加する可能性が高いと考えられます。
こうした事業者の負担を一定期間は緩和できるよう、制度開始から経過措置が用意されています。
インボイス制度の主な経過措置には、次のようなものがあります。
・ 8割控除の特例
・ 2割特例
・ 少額特例制度
2割特例は、こうしたインボイス制度の負担軽減措置のうちの一つです。

2.「2割特例」の概要
2割特例とは、免税事業者であった事業者が適格請求書発行事業者(=課税事業者)となる場合に受けられる制度です。
この特例の適用を受けると、仕入税額控除の金額を売上げに係る消費税額の8割として控除計算できます。つまり、「売上時に預かった消費税の2割」が消費税の納税額となる制度です。
そのため、多くの事業者にとって消費税の納税負担が緩和されることになります。また、売上高のみで消費税額が計算でき、仕入の際に支払った消費税の計算は不要なので、納税額を計算するための事務負担も大幅に軽減されます。
2割特例の納税額
「売上の消費税額 -(売上の消費税額 × 80%)」=納税額
適用期間
2割特例の適用期間は、
「2023年10月1日から2026年9月30日(令和5年10月1日から令和8年9月30日)までに属する各課税期間」
です。
3.「2割特例」の対象者
2割特例の適用対象者
2割特例は、インボイス制度の導入を機に、免税事業者から課税事業者になる事業者のための負担軽減措置です。
したがって、この2割特例の適用対象者は、インボイス制度導入を機にインボイス登録をして免税事業者から課税事業者になった事業者に限られています。
インボイス制度の有無にかかわらず、もともと課税事業者である事業者は2割特例の対象外となります。
(注)基準期間の課税売上高が1,000万円を超える事業者である場合は、2割特例は適用できません。
また、課税事業者選択届出書を提出して課税事業者となっていた場合も、2023年10月1日を含む課税期間は2割特例の適用を受けられません。
さらに、新しく法人を立ち上げた際、資本金が1,000万円以上ある場合、設立年度は課税事業者と見なされるため、その年の2割特例の適用は受けられません。
2割特例の対象にならない事業者
下記の要件のいずれかに該当すると、2割特例の対象にはなりません。
①基準期間か特定期間の課税売上高が1000万円を超える事業者
(注)特定期間とは、個人事業者についてはその年の前年1月1日から6月30日までの期間、法人についてはその事業年度の前事業年度開始の日以後6ヶ月の期間をいいます。
②「課税事業者選択届出書」を提出して2023年10月1日の属する課税期間以前から課税事業者になっている事業者(一定の救済措置あり※)
③課税期間の短縮をしている事業者
④設立時資本金が1,000万円以上の新設法人
※「課税事業者選択届出書」を提出している場合の注意点
過去に消費税課税事業者選択届出書を提出し、2023年10月1日より前から消費税の課税事業者である事業者については、2割特例の適用を受けることができません。
そのため、2割特例の適用を受けたい場合には、令和5年10月1日の属する課税期間の末日までに「消費税課税事業者選択不適用届出書」を提出することで、2割特例を適用することができるようになります。
国税庁参考サイト
4.「2割特例」を受けるための手続き等
2割特例の適用にあたっては、消費税の確定申告書に2割特例の適用を受ける旨を付記することだけで適用を受けることができます。簡易課税のような事前の届出等の必要はありません。
ただし、以前から課税事業者を選択していた場合は、じょうき3.に記載のとおり、令和5年10月1日の属する課税期間の末日までに「消費税課税事業者選択不適用届出書」を提出する必要があります。
また、2割特例には継続適用を要件としていません。つまり、消費税の確定申告を行うごとに2割特例の適用を受けるかどうかの選択が可能です。
5.「2割特例」と簡易課税の関係
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2割特例と簡易課税の選択の仕方
2割特例の適用を受けるためには、事前の届出は必要なく、消費税の申告時に消費税の確定申告書に2割特例の適用を受ける旨を付記することで適用を受けることができます。
また、2割特例を適用して申告した翌課税期間において継続して2割特例を適用しなければならないといった制限はなく、課税期間ごとに2割特例を適用して申告するか否かについて判断することができます。
したがって、2割特例が適用できる状態であっても、簡易課税制度を選択することは可能です。ただし、簡易課税制度の届け出をしている必要があります。通常、簡易課税制度の適用を受けようとする場合は、その課税期間の初日の前日までに、「消費税簡易課税制度選択届出書」を納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。
ただし、免税事業者が、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間に、インボイス発行事業者として登録された場合、適用を受けたい課税期間の末日までに選択届出書を提出すると、簡易課税制度の適用を受けられます。
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2割特例を利用しない方がよい場合
卸売業の場合
簡易課税の計算方法は、
売上の消費税額-売上の消費税額×みなし仕入れ率
です。
卸売業はみなし仕入れ率が90%となっていますので、2割特例より簡易課税の方が有利となります。
還付になる場合
消費税の還付が受けられる場合には、2割特例ではなく本則課税を適用した方が有利です。
たとえば、多額の設備投資がある場合のは、本則課税であれば、還付になる場合があります。
このようなときは。やみくもに2割特例を適用せずに本則課税の計算もしたうえで、判断しましょう。
6.まとめ
2割特例の適用期間は、令和5年10⽉ 1⽇から令和8年9⽉30⽇までの各課税期間です。この経過措置が終了したあとは、本則課税と簡易課税制度のどちらの適用を受けるのかを決める必要がありますので、早めに対応を決めましょう。
2割特例を使った事業者は、特例措置として、2割特例を使った翌課税期間中に消費税簡易課税制度選択届出書を提出すればその期に簡易課税へ移行できます。
<2割特例の対象者>
免税事業者からインボイス発行事業者になった事業者(もともと課税事業者である場合は除かれます)
〈対象期間〉
2023年10月1日から2026年9月30日(令和5年10月1日から令和8年9月30日)を含む各課税期間