インボイス制度の経過措置の8割控除特例とは?免税事業者などからの仕入はどうなる?

インボイス制度の経過措置の8割控除特例とは?免税事業者などからの仕入はどうなる?

インボイス制度において、免税事業者からインボイス発行事業者になる場合、今までは納税していなかった消費税を今後は納税しなければなりません。

さらに、インボイス制度では免税事業者など適格請求書発行事業者以外からの課税仕入れは原則仕入税額控除できません。

これは少なからず個人事業主やフリーランス、中小企業にとって大きな負担です。

 

これを軽減するため、インボイス制度の施行から6年間は、免税事業者からの課税仕入れであっても部分的に仕入税額控除を受けられる経過措置が設けられています。この経過措置のうち、仕入税額控除の経過措置(8割控除の特例)とは、免税事業者等からの課税仕入れの80%(または50%)を控除できるという時限的制度です。

以下、この記事で詳しく解説します。

インボイス制度とはどういうものか

(1)インボイス制度とは

2023年(令和5年)10月1日から、消費税の仕入税額控除の方式としてインボイス制度が開始されました。 インボイス制度は正式名称を「適格請求書等保存方式」といい、請求書や納品書の交付や保存に関する制度であり、売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額などを伝えるための制度です。

 

インボイス制度では、課税事業者が仕入税額控除を受けるために、所定の項目が記載された「適格請求書(インボイス)」の保存等が必要になります。インボイスには、取引年月日や発行事業者名のほかに「登録番号」「適用税率」「税率ごとに区分した消費税額等」の記載が義務付けられます。

 

これまでは、インボイスの交付を受けなくても、課税事業者は消費税を納付する際に仕入れ時に支払った消費税分を控除できました。しかし、インボイス制度が導入されたことで、仕入れ先が発行したインボイスを保存しない場合、仕入れ時に消費税を支払ったとしても仕入税額の控除が受けられなくなります

(2)仕入税額控除とは

消費税は消費者が負担しますが、納税は課税事業者が行います。課税事業者は、売上げに係る消費税額から、仕入れに係る消費税額を差し引いて計算した額を納税します。

 

売上で受け取った消費税額から、仕入れで支払った消費税額を差し引くことを「仕入税額控除」と言います。

具体的には、消費税として税務署に納める金額は、次の計算方法で計算します(原則課税)。

 

「課税売上に関して受け取った消費税額」-「課税仕入に関して支払った消費税額」=納めるべき消費税額
 
 
インボイス制度の導入により、この仕入税額控除を認めてもらうためには、「適格請求書(インボイス)」の保存が義務付けられました。

(3)インボイス制度のポイント

インボイスの保存が必須

2023年10月にインボイス制度がはじまると、この仕入税額控除をするためには、原則として、仕入先からインボイス(適格請求書)を発行してもらい、保存しておく必要があります。

インボイス発行できるのは登録事業者のみ

このインボイスは、税務署長の登録を受けたインボイス発行事業者(登録事業者)のみが発行できます。つまり、仕入先にインボイスを発行してもらうには、仕入先が税務署にインボイス事業者として登録する必要があります。つまり、仕入先がインボイス発行事業者であるか確認する作業が必要となってきます。

仕入先がインボイスを発行してくれないと納税額が増える

仮に、仕入先がインボイス発行事業者ではなかった場合、そこから仕入れた取引は、仕入税額控除ができず納税する消費税の額が増えてしまいます。

免税事業者、インボイス登録をしていない事業者、消費者からの仕入には、注意が必要です。

インボイス制度経過措置とは

2023年10月1日のインボイス制度の導入後は、原則としてインボイス(適格請求書)を保存しない限り、仕入税額控除が受けられなくなります。このため、事業者の税負担及び事務負担が増加する可能性が高いと考えられます。

 

こうした事業者の負担を一定期間は緩和できるよう、制度開始から経過措置が用意されています。

インボイス制度の主な経過措置には、次のようなものがあります。

・仕入税額控除の経過措置(8割控除の特例)

・ 2割特例

・ 少額特例制度

 

以下で、仕入税額控除の経過措置(8割控除の特例)を説明します。

8割控除の特例

免税事業者からの仕入であっても仕入税額控除が一部可能

インボイス制度では、免税事業者や登録を受けていない課税事業者からの仕入れについては、インボイスの交付を受けられないため、仕入税額控除ができません。 そのため、制度導入時の激変緩和措置として8割控除の特例が経過措置として設けられました。  

この制度を使うと、免税事業者等からの仕入れの80%が仕入税額控除の対象となります。つまり、インボイスがもらえなくても仕入税額控除が一定額は認めてもらえる制度です。

取引先が免税事業者である場合やインボイス番号を取得していない場合であっても、経過措置の期間中であれば、一定割合(8割または5割)に限って仕入税額の控除が可能となります。

経過措置を適用できる期間は6年間で、仕入税額の控除割合は次の通りです。 二段階で割合が変わるので注意が必要です。  

・2023年10月1日から2026年9月30日まで:仕入税額相当額の80%

・2026年10月1日から2029年9月30日まで:仕入税額相当額の50%

8割控除の特例を使える事業者

この仕入税額控除の経過措置の対象になる事業者 特に制限はありません。すべての事業者が利用できます。事前の届出や申請は必要ありません。

 

(注)なお、消費税の計算方法として、簡易課税制度2割特例制度を選択している事業者は、この制度を使う必要がありません。

詳しくは、「インボイス制度の2割特例とは?簡易課税との関係も解説します」をご覧ください。

適用要件

8割控除の特例の適用を受けるには、一定の要件を満たす帳簿および請求書等の保存が必要となります。

①経過措置の適用を受ける旨の記載のある「帳簿」

帳簿に関しては、区分記載請求書等保存方式と同様の記載事項に加え、経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨の記載(「80%控除対象」など)が必要です。

帳簿に記載すべき要件は、具体的には次の通りです。  

・仕入先の免税事業者の氏名または名称

・取引年月日

・取引内容

・経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨の記載

・課税仕入れの取引金額

上記の事項を会計ソフトに入力するようにしましょう。

②区分記載請求書と同様の「請求書等」の保存

 請求書等については、区分記載請求書と同様の記載事項が必要で、これを保存する必要があります。

区分記載請求書の記載事項は、具体的には次の通りです。  

・請求書等の作成者の氏名又は名称

・取引を行った年月日

・取引内容(経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨)

・税率ごとに合計した税込価格

・請求書等の交付を受ける事業者の氏名または名称

8割控除の特例の注意点

適用期間

この仕入税額控除の経過措置(8割控除の特例)は、あくまでも経過措置であるため、適用期間が次の通り限定されています。

税率が二段階で下がり、それぞれ3年間しか使えませんので、注意しましょう。

・2023年10月1日から2026年9月30日まで:仕入税額相当額の80%

・2026年10月1日から2029年9月30日まで:仕入税額相当額の50%

2029年10月1日以降は適格請求書が保存されていなければ、仕入税額控除が適用されません。

簡易課税制度や2割特例制度を選択している場合

消費税の計算方法として、簡易課税制度2割特例制度を選択している事業者は、この制度を使う必要がありません。