「仕訳」が経営にどう関わる?~仕訳から見るお金の動き~

「仕訳」が経営にどう関わる?~仕訳から見るお金の動き~

「仕訳」が経営にどう関わる?~仕訳から見るお金の動き~

「仕訳」と聞くと簿記や経理の専門用語で難しそう、と感じる方も多いのではないでしょうか。しかし、仕訳は単なる事務作業ではありません。会社のお金の動きを記録する、いわば「会社の羅針盤」です。日々の仕訳を読み解くことで会社の無駄な出費を発見したり、将来の成長戦略を立てるヒントを得たり、利益がどこへ向かっているのかを把握したりすることができます。この記事では仕訳を経営改善に活かす具体的な方法を、3つのポイントに絞って解説します。あなたの会社を、仕訳というツールを使って次のステージへ導きましょう!

 

1.仕訳でわかるコスト削減のヒント

会社の経営を考える上で、売上を増やすことと同じくらい重要なのが「コストを削減すること」です。でも「コスト削減」と聞くと、どこから手をつけていいか分からない、という方も多いのではないでしょうか。実は、その答えはすべて日々の「仕訳」の中に隠されています。この記事では仕訳から無駄な出費を見つけ出し、会社の経営を改善するための具体的なヒントをご紹介します。

 

(1)会社の支出を可視化する「費用の仕訳」

仕訳は、単なるお金の記録ではありません。いわば、会社の「履歴書」であり「健康診断のデータ」のようなものです。このデータには売上だけでなく家賃、人件費、交通費、広告費など、あらゆる「費用」の記録が含まれています。例えば出張で電車に乗った時の交通費を精算する際、以下のような仕訳が切られます。

 (借方)旅費交通費 5千円 / (貸方)現金 5千円

この仕訳を1年間積み重ねていくと「旅費交通費」という勘定科目に、会社全体の交通費の合計額が集計されます。そして、この合計額を部署ごとや社員ごとに細かく集計し直すことで「誰が」「何のために」「いくら」使ったのかが、驚くほど明確になるのです。仕訳を分析することは会社の支出にスポットライトを当て、無駄な出費を「見える化」する作業だと言えるでしょう。

 

(2)仕訳から見つかるコスト削減のヒント3選

では、具体的に仕訳の記録をどのように活用すれば良いのでしょうか。ここでは、仕訳から読み解けるコスト削減のヒントを3つご紹介します。

①どの部署の「旅費交通費」が高い?
「旅費交通費」の合計額が例年より増えている場合、仕訳の明細をチェックしてみましょう。

 ・特定の部署や社員の出張が急増していないか?
 ・新幹線や飛行機などの利用が増えていないか?

もし特定の部署の交通費が突出して高ければ、出張の必要性を再検討したりオンライン会議ツールを積極的に活用したりするよう促すことができます。また新幹線のチケットを早期割引で予約するなど、より効率的な経費利用を呼びかけることも可能です。

②交際費は本当に必要?

「交際費」も仕訳を分析することで見直せるコストの一つです。

 ・取引先との飲食代が、本当に売上に結びついているか?
 ・特定の取引先との飲食が過剰になっていないか?

交際費の仕訳には「いつ」「誰と」「何のために」といった情報がメモ書きとして残されていることが多いです。これを見直すことで費用対効果が低い交際費を発見し、より効果的な営業活動にリソースを集中させることができます。

③「消耗品費」の増加はなぜ?

「消耗品費」は文房具や備品など、日常的な小さな出費の集まりです。しかし、これが積み重なると大きな金額になります。

 ・部署ごとに消耗品費を比較し、使いすぎている部署はないか?
 ・不必要な備品をまとめて購入していないか?

特定の部署が毎月高額な文房具を購入している場合、消耗品費の仕訳を分析することで部署ごとの経費の傾向を把握できます。このようなケースでは経費の承認プロセスを見直すことで、無駄な購入を減らせるかもしれません。例えば購入品をある程度固定化することで、経費の効率化が図れます。

 

(3)誰もが「経理視点」を持つメリット

仕訳の分析は、経理担当者だけのものではありません。経営者や各部署の責任者が、自身の部署の仕訳をチェックする習慣を持つことで、会社全体のコスト意識は大きく向上します。「無駄な出費はないか?」「もっと効率的に経費を使えないか?」といった経理視点を持つことで、数字に基づいた経営判断ができるようになるでしょう。日々の仕訳は単なる記録ではなく、会社の経営をより良くするための宝の山です。ぜひ今日から、自社の仕訳を少しだけ覗いてみてください。思いもよらなかったコスト削減のヒントが見つかり、その分をさらなる投資や従業員への還元に充てられるかもしれません。

 

2.仕訳から会社の未来を読む! 

会社の経営にとって、仕訳は「過去の記録」と捉えられがちです。たしかに仕訳は日々のお金の動きを記録する作業であり、過去の出来事を正確に記すことが第一の目的です。しかし成長を続ける企業は、仕訳を単なる記録として終わらせません。彼らは仕訳を「未来を読み解くための羅針盤」として活用しています。過去の仕訳データには、未来の戦略を立てる上で欠かせないヒントが隠されているからです。この記事では、仕訳から会社の未来を読み解くための具体的な方法をご紹介します。

 

(1)過去の仕訳データが「成功の方程式」を教えてくれる

成長企業は、売上を増やすために試行錯誤を繰り返します。広告を出してみたり、新しい商品を開発してみたり、特定のターゲットに絞ったキャンペーンを打ってみたり。そしてそのすべての活動に伴うお金の動きは、仕訳として記録されます。ここで重要なのは「どの活動が、どのくらいの売上(成果)につながったか」を仕訳データから読み解くことです。例えば、

 

 ☆新しいWeb広告に50万円を費やした
 → この広告に関連する売上が、仕訳データから100万円増加していることがわかった。
 ☆イベント出展に20万円を費やした
 → イベント関連の売上は、仕訳データから5万円しか増えていないことがわかった。


この2つの仕訳データと結果を比較すれば、Web広告の方が費用対効果が高いことが一目瞭然です。このように仕訳データを細かく分析することで
「どの施策に投資すれば、最も効率的に売上が伸びるか」という成功の方程式が見えてくるのです。

 

(2)会社の「体質改善」は、仕訳から始まる

成長企業は、常に会社の「体質」をより良くしようと努めています。体質改善には、仕訳が大きな役割を果たします。先述した「コスト削減」もその一つですが、ここではもう少し踏み込んで「お金の流れを最適化する」という視点をご紹介します。例えば会社の現金預金が少ないと感じた場合、その原因はどこにあるのでしょうか。仕訳データを見ていくと、

 

 ☆商品の仕入れ代金を、手元に現金がない状態で支払っている
 → 買掛金の支払いサイト(支払いまでの期間)を見直す必要があるかもしれない。

  → 改善した結果、ある程度の現金を確保した状態で余裕のある仕入れ業務ができた。
 ☆売上代金の入金が遅れている取引先が多い
 → 売掛金の回収状況を定期的にチェックし、催促する仕組みを作る必要があるかもしれない。

  → 仕組みを落とし込めたことで、取引先との関係悪化もさせずスムーズな取引、利益確定ができた。


このように、仕訳を分析することで会社のお金がどこで滞っているのか、どこに無駄な流れがあるのかを特定できます。そして、その原因に合わせて支払いサイトを変更したり、入金管理のルールを徹底したりすることで、会社の財務体質を根本から強くすることができるのです。

 

(3)仕訳は「未来の経営シミュレーション」の土台

仕訳データは、未来の経営計画を立てる上でも不可欠です。例えば新しい事業を始めたいと考えたとき、どれくらいの初期投資が必要でどれくらいの費用がかかるのかを予測しなければなりません。過去の仕訳データには「オフィスを借りるのにかかった費用」「新しいPCを購入した費用」「従業員を雇うのにかかった人件費」など、事業運営に必要なあらゆるコストが詰まっています。これらの過去のデータを参考にすることで、より現実的で精度の高い経営シミュレーションを立てることができます。

 ☆「新しい事業を始めるには、過去のデータから見て最低〇〇万円の初期費用が必要だ。」
 ☆「人件費は月〇〇万円かかるから、売上が〇〇万円を超えないと赤字になる。」

といった具体的な目標設定が可能になり、「感覚」ではなく「数字」に基づいた意思決定ができるようになります。

 

(4)誰もが未来を語れる「仕訳のチカラ」

仕訳は、経理担当者だけのものではありません。営業担当者は自分の売上や経費の仕訳を見ることで、より効果的な営業戦略を立てられます。開発担当者は開発費用と売上の仕訳を比較することで、次に作るべき商品を考えるヒントを得られるでしょう。仕訳を「過去の記録」ではなく「未来を読み解くためのデータ」と捉えること。これこそが、成長企業が実践していることです。もし皆さんが会社の未来を真剣に考えたいと思うなら、まず仕訳から会社の過去を紐解いてみてください。そこに、きっと未来への道筋が見えてくるはずです。

 

3.仕訳で追うお金の流れ

「今期は利益が出ました!」という報告を聞いて、ホッとする経営者や社員の方は多いでしょう。しかしその利益は今、会社のどこにあるのかご存知でしょうか?利益が出ているはずなのに、なぜか手元の現金が増えない。そんな疑問を持ったことはありませんか?実は、その答えはすべて日々の「仕訳」の中に隠されています。仕訳は単なる記録ではありません。それは、会社のお金がどこから来て、どこへ行ったのかを追跡するための「ストーリーブック」なのです。この記事では、仕訳を読み解きながら会社の利益がどこに流れているのか、その謎を解き明かしていきます。

 

(1)利益は「現金」とは限らない

まず知っておくべきことは「利益 = 現金」ではないということです。損益計算書(P/L)に記載される利益は収益から費用を差し引いた金額であり、これは必ずしも現金と一致しません。例えば、商品を売って100万円の売上があったとします。しかし、この代金をまだ受け取っておらず月末にまとめて入金される契約だった場合、仕訳は以下のようになります。

 (借方)売掛金 100万円 / (貸方)売上 100万円

この時点でP/L上では「売上100万円」として利益に貢献しますが、会社の現金は1円も増えていません。この仕訳は「将来、100万円のお金を受け取る権利(売掛金)を得た」ことを示しています。利益はこの「受け取る権利」という形で存在しているのです。このように仕訳を追っていくと利益が「現金」として手元にあるのか、「売掛金」として取引先にあるのか、「在庫」として倉庫にあるのかが明確になります。

 

(2)仕訳で追跡する利益の「変身」

利益はさまざまな形に姿を変えながら、会社の中を巡っていきます。その変身の様子を仕訳を読み解きながら見ていきましょう。

 

①利益が「現金」として手元に残る
費用を支払った後の利益分が現金として手元に残った場合、そのお金は会社の銀行預金などに保管されます。これは最も分かりやすいパターンです。

②利益が「設備投資」に変わる
事業拡大のため、利益を使って新しい機械や建物を購入することがあります。このときの仕訳は以下のようになります。

 (借方)機械装置 500万円 / (貸方)現金預金 500万円

この仕訳は「現金という形で存在していた利益が、機械という形に姿を変えた」ことを示しています。会社の総資産は変わりませんが、現金の代わりに固定資産が増えることで将来の売上を生み出す力になります。

③利益が「借入金の返済」に使われる
過去に借りたお金を返済するために利益を使うこともあります。

 (借方)借入金 200万円 / (貸方)現金預金 200万円

この仕訳は「利益が会社の負債を減らすために使われた」ことを示しています。これは会社の財務体質を改善する、非常に健全な利益の使い方です。

 

(3)会社の「ストーリー」を読み解く力

仕訳を追っていくことは会社のお金がどんな旅をしてきたのか、その「ストーリー」を読み解くことに他なりません。

 ☆売掛金がどんどん増えている
 → 利益は出ているが、入金が遅れていて資金繰りが苦しいかもしれない。入金管理を見直す必要がある。
 ☆固定資産(建物や機械)が大きく増えている
 → 利益を将来の事業拡大のために投資している。積極的な経営姿勢が見て取れる。
 ☆借入金が着実に減っている
 → 利益を負債の返済に充てている。会社の財務状況が健全化している。

このように仕訳の記録を物語として捉えることで、会社の現状と未来の可能性が見えてきます。

 

(4)誰もが「お金の流れ」を意識する会社へ

経理担当者だけでなく、会社の全員が仕訳の持つ意味を理解することは非常に重要です。
【営業担当者】売上の仕訳だけでなく、それが「いつ現金になるか」まで意識することで、資金繰りに貢献できる。
製造担当者】仕入れの仕訳を見ることで、在庫管理の重要性を再認識できる。
経営者】仕訳のデータを俯瞰することで、どこに利益を振り分けるのが最も会社の成長につながるかを判断できる。

会社の利益は、決して一か所に留まっているわけではありません。それは売掛金や在庫、設備、借入金の返済といったさまざまな形に姿を変えながら、会社の中を巡っているのです。仕訳というストーリーブックを読み解くことで皆さんの会社の利益が今どこにあり、どんな未来を描いているのか、ぜひ探してみてください。

 

4.まとめ

仕訳は、単なる経理担当者の作業ではありません。今回見てきたように、それは会社の経営そのものに深く関わる重要なツールです。日々の仕訳を記録することで、無駄なコストを「見える化」し経営改善のヒントを見つけ出すことができます。また過去の仕訳データを分析することで成功に繋がる「未来の戦略」を立て、事業の成長を加速させることも可能です。さらに利益が「現金」だけでなくさまざまな資産や負債の形で存在することを理解し、会社のお金の流れ全体を把握することで、より健全な財務体質を築くことができます。仕訳は会社の過去を正確に記録し現在の課題を浮き彫りにし、そして未来の成長への道筋を示す「羅針盤」です。すべての社員が仕訳の持つ意味を理解し会社の数字に意識を向けることで、組織全体の経営力は飛躍的に向上します。ぜひこの機会に仕訳というツールを積極的に活用し、あなたの会社を次のステージへと導いてください。