ゼロから学ぶ経理入門~その16~ 「資本的支出」と「収益的支出」の見分け方 徹底解説

ゼロから学ぶ経理入門~その16~ 「資本的支出」と「収益的支出」の見分け方 徹底解説

ゼロから学ぶ経理入門~その16~ 「資本的支出」と「収益的支出」の見分け方 徹底解説

 

こんにちは。

固定資産の改良や修理にかかる費用をどう処理すべきか、悩んだ経験はありませんか?簿記では、建物や設備の修理や更新に関わる費用には、「改良」「修繕」という異なる考え方があります。そして、それに伴う会計処理も「資本的支出」と「収益的支出」に分けられ、正しく理解しておくことがとても重要です。本記事では、両者の違いと判定基準を、具体例を交えてわかりやすく解説します。簿記や会計の試験では、見分けが難しいひっかけ問題も多く出題されるため、しっかりとした基礎知識を身に付けていきましょう!

 

1.資本的支出と収益的支出とは?

簿記の学習を進める中で、「資本的支出(改良)」「収益的支出(修繕)」という言葉に出会った方も多いのではないでしょうか? 一見似たような響きですが、実はこの2つには明確な違いがあり、仕訳の処理方法にも影響します。この記事では、それぞれの定義や目的、違いについて解説していきます。簿記初心者の方でもしっかり理解できる内容なので、試験対策にもぜひ役立ててくださいね。


(1)資本的支出とは?

資本的支出とは、固定資産の取得や、価値を高めたり耐用年数を延ばすための支出のことを指します。簡単に言うと、「将来にわたって利益をもたらすような支出」のことです。

【例】

 ・建物を新しく建てた
 ・機械に新機能を追加した
 ・車両を大規模に改良した(長持ちするようにした)
これらは企業にとって、数年にわたって使用されるものですので、「資産」として処理されます。仕訳では固定資産の勘定科目(建物、機械装置、車両運搬具など)を使います。

 

(2)収益的支出とは?

一方で、収益的支出は、日常的な修繕や維持管理など、その期の「費用」として処理される支出です。つまり、「今期の売上を得るための支出」や「資産の維持を目的とした支出」になります。

【例】

 ・壊れたドアを修理した
 ・車の定期点検費用
 ・エアコンのフィルター交換
これらは企業が日常的に行う支出であり、資産価値が増えるわけではありません。仕訳では「修繕費、消耗品費、保守費」などの費用科目を使います。

 

(3)改良と修繕の違いとは?

用語 意味 会計処理
改良(かいりょう) 機能をアップさせたり、寿命を延ばしたりする工事や取り替え 「建物」や「車両運搬具」などの資産の金額に加える
(資本的支出)
修繕(しゅうぜん) 壊れた部分や劣化した部分を元の状態に戻すこと 修繕費」という費用として処理(収益的支出)

 

☆イメージで理解しましょう!

【改良の例】
 ・車にナビや新しいパーツを取り付けて性能アップ → 改良
 ・建物の古いトイレを最新のウォシュレット付きに全面交換 → 改良
【修繕の例】
 ・車が故障して、エンジンを修理 → もとの状態に戻しただけ → 修繕費
 ・建物の雨漏りを直した → これも修繕 → 修繕費

 

☆会計上の違いのポイント
 ・「性能アップ・寿命延長」が目的 → 改良(資産に加算)
 ・「現状維持」が目的 → 修繕(費用)
 

(4)試験では「言葉」より「内容」に注目!

簿記では、問題文中の表現に惑わされないことが重要です。たとえば「修理費用〇円」と書かれていても、内容を読むと耐用年数の延長をともなう改良である場合、資本的支出として処理しなければなりません。したがって、金額や作業内容をよく読んで、「その支出が資産の価値や使用年数に影響を与えるかどうか」をしっかり見極めましょう。

 

2.具体例でわかる!資本的支出・収益的支出の見分け方

簿記の勉強を進めていくと、「資本的支出」と「収益的支出」の違いに戸惑う方は多いです。特に試験では「修理費」と一言で表されていても、実はその内容によって処理がまったく異なるケースも。そこで今回は、よく出題される改良や修繕の具体例をもとに、資本的支出と収益的支出の見分け方をやさしく解説します。実際の問題でも役立つ判断ポイントも合わせてご紹介します!

 

(1)よくある具体例と見分け方

エアコンが故障し、モーター部分を新品に交換

 このケースでは、単に壊れた部品を取り換えただけであり、機能や価値が元の状態に戻る程度です。
  → 収益的支出(修繕費)

古い機械に最新の制御装置を取り付け、生産効率が大幅に向上

 機能が明らかに向上しており、将来の利益が見込まれるケース。
  → 資本的支出(機械勘定などに計上)

10年使用した車両のエンジンを新品に交換し、さらに10年使用可能に

 耐用年数の延長が明確に見られるため、資産の価値が増したと判断される。
  → 資本的支出(車両運搬具勘定など)

建物の壁にヒビが入ったため、一部を補修

 損傷部分を元に戻すための支出であり、価値の増加はなし。
  → 収益的支出(修繕費)

 

(2)判断ポイントまとめ

判断に迷ったら、以下の観点でチェックしてみましょう。

①「元に戻すだけ」か「グレードアップ」か?
 ・改良や追加 → 資本的支出
 ・元の状態に戻すだけ → 収益的支出

②会計処理に使う勘定科目は?
 ・資産を増やす → 建物、機械、車両など(資本的支出)
 ・今期の費用 → 修繕費、保守費など(収益的支出)

 

 

3.試験によく出る!ひっかけ問題のパターンと対策

簿記の試験では、「資本的支出」と「収益的支出」の見極めが問われる問題がよく出題されます。しかし中には、「どちらにも思える…」という曖昧な表現を使ったひっかけ問題も多く、正しく判断できないと大きな減点につながります。今回は、そうしたひっかけ問題のパターンと、それに対応するための見極めポイントをわかりやすく解説していきます。

 

(1)ひっかけポイント① → 「修理」と書いてある = 収益的支出…とは限らない!

☆例題

「建物の屋根を修理し、より断熱性の高い素材に全面改修した。費用は300,000円」

ここで「修理」という言葉に惑わされると、「収益的支出」と誤って判断してしまいます。
しかし、内容を見ると断熱性を高める改修 = 建物の価値を向上させているため、これは資本的支出になります。

【仕訳】

 (借方)建物 300,000 / (貸方)現金 300,000

※対策
 ・キーワードではなく「目的」を見ること!
 ・機能向上、長寿命化 = 資本的支出

 

(2)ひっかけポイント② → 金額が大きいから = 資本的支出…とは限らない!

☆例題

「複合機の修理に80,000円を支出した。故障した印刷部分の交換のみ」

金額が80,000円と高額であるため、「資本的支出?」と思う方もいますが、内容は単なる修理です。価値の向上や耐用年数の延長にはなっていないため、収益的支出です。

【仕訳】

 (借方)修繕費 80,000 / (貸方)現金 80,000

※対策
 金額ではなく「内容」がすべて。高額 = 資本とは限らない!

 

(3)ひっかけポイント③ → 「新しくした」だけでは判定できない!

「設備を新しくした」という表現も注意が必要です。新しくした = 資本的支出と決めつけるのは危険です。

☆例題

「10年使用したエアコンが故障し、同等品に買い替えた。費用は150,000円」

このケースは、元の性能に戻すだけなので、資本的支出にはならず、修繕や維持扱いと思われがちですが、買い替えは新たな資産の取得とみなされるため、資本的支出になります。

【仕訳】

 (借方)建物附属設備 150,000 / (貸方)現金 150,000

※対策
 修理と「取得・買い替え」は別物。新品取得は基本的に資本的支出!

 

(4)見極め方のチェックリスト(試験直前におすすめ!)

判断に迷ったら、次の3つを確認しましょう。

①支出の目的は?
 価値が上がる・長く使える → 資本的支出
 元の状態に戻す → 収益的支出
どんな作業をした?
 改良・機能追加・増築など → 資本的支出
 小規模な修理や交換 → 収益的支出
固定資産の勘定科目が使える内容か?
 建物・機械・車両などと対応していれば資本的支出の可能性あり

 

(5)実践練習問題(〇×形式)

Q1:パソコンのメモリを増設し、処理速度が向上した → 資本的支出?
〇(機能向上)

Q2:台風で壊れた屋根を元通りに修理 → 資本的支出?
×(元の状態への復旧 = 収益的支出)

Q3:古い自動車を廃車にし、新しい同等車を購入 → 資本的支出?
〇(新たな資産取得)

 

4.まとめとチェックリスト → 資本的支出 vs 収益的支出 

簿記3級でよく出題される「資本的支出」と「収益的支出」。学習を一通り終えたものの、試験前に整理しておきたい…という方も多いのではないでしょうか?今回は、これまで学んだ内容をもとに、違いを明確に整理し、覚えるべきポイントをチェックリスト形式でご紹介します。この記事で、しっかりと記憶を定着させましょう!

 

(1)覚えておくべき!判断ポイントのまとめ

以下のような基準で判断すると、試験でも迷いにくくなります。

判断基準 資本的支出 収益的支出
支出の目的  改良・機能向上・長寿命化 元の状態への修理・維持
資産価値の変化  増加する 増加しない
耐用年数 延びることが多い  基本的に変わらない
勘定科目 建物、機械など(資産) 修繕費など(費用)
会計処理 資産として計上 期間費用として処理

(2)チェックリストで判断力アップ!

試験前に次のチェックリストで復習しておきましょう!

 ☆支出により資産の価値が上がっているか?
 ☆耐用年数が延びているか?
 ☆作業内容が追加・改良・増築などか?
 ☆単に元に戻すだけの修理・点検ではないか?
 ☆会計処理が資産計上なのか費用処理なのか?

この5つの質問に「はい」と答えられるものが多いほど、資本的支出の可能性が高いと判断できます。

 

5.おわりに

簿記では、「資本的支出」と「収益的支出」の違いを正しく理解することがとても重要です。一見似たような「改良」や「修繕」も、その目的や内容によって会計処理がまったく異なるため、間違えると大きな減点につながります。

資本的支出は、固定資産の価値を高めたり、耐用年数を延ばすなど、将来の利益につながる支出です。取得や機能の追加、長寿命化などが該当し、資産として計上されます。一方で、収益的支出は、資産を元の状態に戻すための日常的な修理や保守点検などで、当期の費用として処理されます。重要なのは、「金額」や「修理」という言葉ではなく、「支出の目的」と「作業の内容」に注目することです。

試験では、あいまいな表現やひっかけも多いため、チェックリストを活用しながら落ち着いて判断しましょう。しっかりと理解を深めておけば、実務でも役立つ知識となるはずです。試験対策として、ぜひ何度も復習し、判断力を養っていきましょう。